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佐久間裕幸の著作

経営の話

niftyserveに連載した経営に関する話

社員の動機付け

ある東京に本社がある情報処理サービス会社が店頭公開を間近にして膨大な審査資料を作成している時の話です。2,3日の間に相当な量の提出資料のワープロ入力をしなければなりません。会社の公開プロジェクトのメンバー、私ら会計士などがチェックして、修正点を出して検討しながら、かたや女性の事務方が入力をしていって、なんとか間に合うかな?という状況です。


その日の午後、数日泊まれるような大きさのバッグを持った4名ほどの女性社員が部屋に入ってきました。役員の一人が「おお、よく来てくれた。がんばってくれ」と。彼女たちは?と聞くと、大阪本部から出張させてきたとの答え。情報処理サービスの会社なんだから、東京の本社や事業所にワープロに長けた社員はいくらでもいるのです。私が怪訝な顔をしていると、専務が説明してくれました。


いくら「今年度株式公開を達成する!」とスローガンを掲げても東京の本社以外の事業所では「なんか本社の方でやってるみたいだけ ど・・・」程度の認識しかされません。ぜひとも全社をあげての態勢とか意気込みを醸成したい。そこでわざわざ大阪本部の中でも優秀な女性社員を選抜して、 東京での入力作業に投入することにしたのだそうです。


当然、大阪からの交通費、宿泊費、手当などがかかります。それでも大阪本部にしてみれば、一番優秀な(従ってそれなりに目立っている)女子社員4人を送り出せば、株式公開準備に参加したという実感が出てきます。そうした意識が生まれるだけでスローガンの受け入れ方がぜんぜん違ってくるわけです。


また送り出された4人にしてみれば、「大阪を代表して来たんだ」という自負がありますから、非常に高いモラルで仕事をしてくれます。逆に一緒に仕事をする本社側の女子社員も負けられないという気持ちになります。いわば経営学で有名なホーソン工場の実験が再現されるわけです。ホーソン工場の実験というのは、作業能率の測定のために実験をしたところ作業場の明るさのような環境の変化よりも「私たちは実験の被験者として選ばれたのだ」という誇りによる高いモラルの方が仕事の能率の向上に影響する、という事実を発見するきっかけになった実験です。


専務は「どうです?1粒で2度おいしいっちゅうやつでっしゃろ」と笑ったが、当時会計士になって3年目の私は、「これが経営と言うものか」と痛く感心したのでありました。特にこの会社の場合、東京に本社を置きつつも、東京と大阪に本部制を敷いて、地域別事業部として活動していました。従って東京と大阪の対抗意識も上手に利用しているわけです。そういう見事な経営をしているその会社は当然店頭登録を成功させ、現在は東証への上場も済ませております。

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