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ベンチャー企業の経営管理

1 ベンチャー企業の経営管理・経理体制の構築の必要性


Ⅰ- 1 ベンチャー企業の経営管理・経理体制の構築の必要性

本日のテーマを選んだのは、私が昭和61年に会計士の試験に受かって以来十数年、一般に株式公開準備のテキスト等で言われているような、経営管理・ 利益管理ができるような管理体制という立派な部分と少し違ったところで、むしろ経理体制とか管理体制を破綻させないという意味合いでの体制の構築、これが どうも必要なのではないかなと思うことがしばしばあったからです。


最近、実際にパソコン販売のベンチャー企業、アキアがカシオの傘下に入るという話もありました。その記事が出ていたVenture Clubという東洋経済新報社の雑誌から簡単に説明してみますと、「在庫部品の評価損、製品在庫廃棄損が発生し、1億4400万円の赤字(推定)に転落」 したが、元取締役が「管理体制を固めていれば赤字にはならなかった」、「在庫管理、経理などの情報システムが機能していない。人材もいない。投資をしない とダメだ、と何度も忠告したが、飯塚さんは聞き流していた」(1999年4月号47ページ)と、発言したというようなことが記事の中にあって、私が「勝手 な推測をするなら原因はファブレスを捨てたことによる過大投資か不良資産の発生のいずれかであり、経営管理体制の弱さないしは崩壊があったということにな ろう」と推測したのが、ズバリ当たっていたということです。
一般にベンチャーの破綻と言うと、オーナー企業で経営については素人の技術屋社長が、ベンチャーキャピタルその他から金をジャブジャブもらったもので過大 投資に走ったという話が多かったようですが、アキアの飯塚さんというのはデルコンピューターの日本での立ち上げをした方で、その前も外資系コンピューター 会社でコンピューター業界にも詳しく、経営者としての経験も積まれていた方で、そういう会社ですら破綻する、という点がやはりショックだったと思っております。



Ⅰ- 2 自己紹介と注意事項

私は、中央監査法人という監査法人に昭和61年に入って平成8年までおりました。主として株式公開準備の会社、あるいはそれが終わった直後からずっ と継続してという仕事がほとんどでした。そういう意味では、売上高数千億とか兆に乗るような会社はほとんど知らないですが、反面、売上高30億とか200 億程度の会社の泥臭い仕事ばかりやっていたという経歴です。平成8年に独立しましたが、株式公開がらみの仕事を少しは持っておきたいなあというのがあり、 平成9年、“ベンチャー支援の業界にいるなら一度会っておくといいよ”とのことで、監査法人の中地宏先生にお会いしたところ、「パソコンがらみの会社の仕 事が入ってきたら是非頼みたいから、名前だけでもメンバーリストに載せさせて」と言われて、名義貸しくらいのつもりかなと思いましたら本当にそういう関係 の会社が入ってきまして、現在1社お手伝いさせていただいているという形です。


この後、私が体験したベンチャー企業破綻の事例が10例ほど出てきますが、本日いらしたみなさん方はそのくらいのベンチャー支援業 界にいらっしゃる方だと思いますので、あ、その会社はあそこかな、とわかってしまう方がいらっしゃるかと思うんですけども、守秘義務の範囲内で、知ってい る者同士で内輪話しましょうという感じで捉えていただきたいと思います。また、山一證券やヤオハンをやっていた中央監査法人にいたからこんなひどい目に 遭ったのかと、ほかの監査法人のクライアントだったらもっときちんと指導されてまともな会社ばかりなのではというのも誤解です。オーナー企業ってそんなも のではないですし、どんな法人でも株式公開の現場にいた方、主としてインチャージとか主査とか呼ばれる形で現場監督をやっていた方に話を聞けば、ひどい目 に遭いましたという話の一つや二つ出てくるということですので、みなさんのかかわっている銀行さんであれば融資する時、ベンチャーキャピタルさんであれば 投資している時でも、こういうことが起こるかもしれないよという怪談話なのかもしれないです。



Ⅰ- 3 ベンチャー企業の管理体制は容易に破綻してしまう

10もの事例が出てくるほど、ベンチャー企業の管理体制というのは容易に破綻してしまいます。積み木細工とかプラモデルを組み立てるのと違いまし て、会社の経営というのは、組織、これ生き物なんですね。従業員一人ずつそれなりの経験を踏まえて会社に勤めているつもりでいるわけですし、それなりの思 惑がある。オーナーはオーナーで社長としての夢があったり思惑があったり、諸般の事情がある。たとえば公開に向けて第三者割当引き受けてしまったが、なか なか公開できず資金繰り苦しいなども含め、いろんな思いが交錯するのが会社の組織ですので、ベンチャー企業が急成長を志向する零細企業であると定義します と、零細企業とはいえ、それなりに人が絡んでいるので、会計士が一人ぽっと乗り込んだから管理体制はよくなりますよ、というものでもないんだと私は思って いるんです。


かつ、経営管理を破綻させないという意味合いでのコンサルティングや支援は、ちょっと地味ではありますね。もっとたくさん売れるよ うにとか、安く仕入れるためのコンサルティングといった話ですと前向きで、やるコンサルタントの方もたくさんいますが、本来経理は翌月の半ばになったら月 次がぱっと締まって、2ヶ月経ったらちゃんと年度決算の申告書が書けているといった当然のことを当然のように実現させるコンサルティングというのはありが た味がないものですから、そういうコンサルタントもなかなかいません。経営者の方もそういうものはできて当然で、自分はもっと売れる方向の営業部隊の旗を 振りたい、経営者は10年後を考えるのが経営者の仕事だと、なかなか経理ないしは販売管理・購買管理に目がいかないことがあるようですが、そうであるがた めにさきほどのアキアのような事例が出てしまったということを、しっかりと念頭に置くべきなんだと思うわけです。飯塚さんにしてこうですから、特にアキア に限らずパソコンのベンチャーというのは非常に破綻しやすいことからも、一般のオーナー企業の社長は言うに及ばずということです。



Ⅰ- 4 パソコンベンチャーは特に破綻しやすい

パソコンというものは生鮮食料品と同じようなもので、機種が古くなっても使えますが、商品としては機能的あるいは市場価格的に腐ってしまうものなん です。どれぐらい破綻しやすいかという例を探そうかなと、少し古めの日経パソコンという雑誌をめくっていましたら、NECのバリュースターというパソコン が、昨年9月27日の段階で27万8000円の店頭価格という記事がありました。スペックを見ますとPentiumⅡ300MHzということで、本年3月 2日に PentiumⅢが出ましたし、Celeronという廉価版のプロセッサですら366や400みたいのが出てくるご時世ですので、このパソコンは今ですと 恐らく10万円くらいにしかならないのではないかと思いますが、そうすると17万8000円値段が落ちます。9月27日から今日まで、ちょうど計ったよう に178日ですので、17万8000円割る178で1日当たり1000円落ちるということです。1日10時間営業しているお店ですと1時間当たり100円 落ちることになります。
ですから、9月27日に27万8000円と値札をつけてお店開けたら、夕方には27万7000円になってしまうぐらい、いえ、機能は落ちないんです、半年 経っても1年経ってもコンセントさえ入っていてスイッチ入れればちゃんと立ち上がるんですが、だれもその値段では買わないというのがパソコンです。1時間 100円ずつ値段が下がっていく商品だということは、意外に認識されていません。だからアキアにしても在庫抱えてしまうんですね。


安く叩き売ればいいんでしょうという理屈も一つありますが、たとえば1年前の200MHzのパソコンが100台あって、これを処分 しなくてはならない場合、みなさんだったらいくらで買い占めてもらうかとちょっと考えていただきたい。明日でも会社に出られた時に仲間の方に200MHz のパソコン、いくらなら買う? と聞いてみると、2万かな3万かなみたいな数字が出てくるでしょう。たとえばアウトレットみたいなお店に叩き売るとなれば 恐らく相当叩かれますので、2~3万の販売価格だったら5000円とか8000円、そんな値段でしか売れないかもしれません。


と考えますと、仕入代金を回収できないのはもう前提として置いてありますが、売るための店員さんの費用・配送コストといった販売コ ストを賄えるだろうかと、それくらい深刻な問題です。売ったってそれ以上コストがかかってしまうという、そういう商品です。そのため結局評価損立てざるを 得ないということです。パソコンがかさばるものだということも一つあるかもしれません。 さらにもう一つ、短時間で大量に売らないと腐ってしまうわけです から、そのためには膨大な広告宣伝費をかけなければならないということもあります。ないしはただに近い値段で一旦ばらまく。一太郎バージョン3あるいは MS‐DOSの2.1の頃のようにただでばらまき、圧倒的なシェアを作ってしまう。または広告宣伝を強引に作るという形にしないといけないんですが、パソ コンベンチャーは売上が小さいんですね。
先ほどのアキアの事例ですと200億くらいの売上が目標だったそうですが、月刊でいつくもあるパソコン関連雑誌に全部カラーで広告入れて、12ヶ月という と恐らく億単位になります。ハードディスクとかモデムとかそういう周辺機器の会社では売上は10億から20億、ぷよぷよというゲームで倒産したコンパイル でせいぜい売上は数十億です。パソコン本体を扱う会社の数百億の売上で年間数億円の販売費というのは、恐らく相当の負担だろうと思いますので、脆弱な企業 体制なのにものすごいお金をかけて、リスクのある商品を扱わなければならないのがパソコンベンチャーなんです。



Ⅰ- 5 管理体制破綻の結果

ということがわかって経営する人がどれだけいますか、それだけわかっていてやっている経理部長っているでしょうかと、そういう話です。しかも、パソコンベンチャーに限らずベンチャーは、利益が出れば50%以上の法人税を払います。嘘だ、49.98でしょうとか、それが減税で下がったんでしょうと思われるかもしれませんが、ベンチャー企業の場合はほとんどがオーナー企業ですので、1500万以上の利益を上げると留保金課税というのがかかってきますから、実行税率50%超えてしまいます。まして開発型のベンチャーですと、利益出す前に欠損抱えて出てくるわけですから、そんな資本の薄い状態で、経営管理が不十分で、評価損やら不良在庫を抱えたらどうなるか。帳簿の上はともかく、実質的にはあっという間に債務超過に陥ります。その時にどうするか。アキアのように資本参加を受ける。あるいは買収される、倒産するというような感じで、結果はもう悲惨ということになるわけです。

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