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佐久間裕幸の著作

新事業進出・ベンチャー支援制度を活用した事業展開

中央経済社「税務弘報」平成12年4月号

予想される電子申告の姿とは

Ⅰ 新事業進出とベンチャーを巡る状況

1 バブル崩壊後の日本の企業状況と中小企業

バブル崩壊後1990年代のわが国企業は、不動産・株式等ストックの価格下落による資本の固定化、バブル時代の過剰設備投資による操業度の低下、景気低迷による余剰人員の発生などにより低迷を続けてきた。
不動産・株式等の価格下落は、建設業や不動産業あるいは証券業に限らず、あらゆる業種において工場用地、投資有価証券、ゴルフ会員権といった資産の含み損 という形で企業の資金を固定化している。これらの資金が固定していることで、必要な運転資金調達のための融資枠を圧迫し、また、担保価値低下により銀行か らの貸し渋りを招くという現象をもたらしている。さらに、バブル時代の景気見通しに基づく過大な設備投資や人員採用の結果、損益分岐点が上昇し、景気の低 迷に対して、非常に脆弱な企業体質となったまま、今日に至っている。設備の廃棄や人員のリストラをするにも資金が必要であったり、多額の損失計上を必要と するため、体質の改善をすることもままならない状態の企業も少なくない。
これらの厳しい企業状況は、バブル時代に公募増資、社債発行など資金調達手段に恵まれ、人員採用も比較的容易だった大企業に発生しやすかったともいえ、そ の点、銀行融資以外に資金調達手段を持たず、バブル時代に人手不足に喘いでいた中小企業では幸いにして上述のような企業状況に陥らずにすんだ会社も見られ るように思える。
こうした背景の下、パーソナルコンピュータの普及を背景にパッケージソフトウェアの流通市場を作ったソフトバンク、携帯電話・PHSの普及とともに伸びた 光通信をはじめとするベンチャー企業が急成長するなど、中小企業の中から新しい時代を切り開く企業群が見いだされてきている。


2 政府の中小企業政策の転換

こうした状況を踏まえ、政府も産業活力再生特別措置法により既存大企業に対して、構造改善への支援をするだけでなく、大企業の リストラによる失業者を中小企業で吸収すべく、中小企業の多様性や創造性、機動性に着目して中小企業政策の理念を転換するに至ったのである。すなわち、従 来、中小企業とは、近代的大企業と生業的中小企業という構造における「弱者」と位置づけられ、大企業との生産性等の格差の是正を政府の政策理念としてき た。
これに対し、今般、中小企業に対し、独立した中小企業の多様で活力ある成長発展を基本理念として、新たな産業の創出、市場競争の促進、就業機会の増大、地域経済活性化といった役割を期待される存在として、位置づけることとなった。

<新しい中小企業政策の柱>
① 経営革新・創業の促進
② 経営基盤強化
③ セイフティネットの整備

ここでは、意欲ある企業や起業希望者に対しては、経営革新や創業を促進し、技術、設備、情報、研修ならびにこれらに必要な資金調達を支援することで 中小企業の強みを伸ばすことが政策体系の柱となる。しかし、中小企業において十分な経営資源が不足していることも確かであるから、経営資源の確保、取引適 正化、国等からの受注機会の確保、連携・共同化の推進、産業集積・商業集積の活性化といった従来からの政策も残され、また、基盤の脆弱な中小企業が激変す る環境に円滑に適用できるよう倒産法制の整備などセイフティネットの整備も政策体系とされたのである。


3 中小企業基本法の改正

こうして中小企業に関する施策の基本理念、基本方針等を定める中小企業基本法が平成11年12月3日改正公布された。まず、第2条の中小企業者の範囲が以下のように拡大された。


<中小企業の範囲(資本金・従業員数)>
製造業その他 卸売業 小売業 サービス業
旧基本法の定義 1億円以下
300人以下
3千万円以下
100人以下
1千万円以下
50人以下
新基本法の定義 3億円以下
300人以下
1億円以下
100人以下
5千万円以下
50人以下
5千万円以下
100人以下

この中小企業の範囲の改訂は、商工組合中央金庫法、中小企業信用保険法、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法、新事業創出促進法、中小企業経営革新支援法などの関連法の対象企業を拡大することとなり、この改訂により、中小企業者の数は1万6千社増加すると見込まれている。 また、こうした改正の目標としては、中小企業基本法以下の総合的な政策により新規株式公開企業数の大幅な増加とともに、5年後において年間開業企業数を10万社程度増加(現在14万社)、今後3~5年の間に、創造的な中小企業数を1万社程度増加させることが掲げられている。

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