TEL03-3827-2291 【受付時間】平日10:00~17:00

佐久間裕幸の著作

新事業進出・ベンチャー支援制度を活用した事業展開

中央経済社「税務弘報」平成12年4月号

2 新事業創出促進法

平成11年12月22日新事業創出促進法の一部を改正する法律が公布された。これは、ベンチャー企業を取り巻く以下のような環境および課題を一気に 打開するために、当面の間、集中的な政策資源の投入により、短期間に株式公開を目指す企業に対する重点的支援を行い、リスクマネー供給の自律的メカニズム を形成しようとするものである。


<ベンチャー企業を取り巻く環境と課題>
ベンチャー企業を取り巻く環境と課題

具体的には、平成元年に成立したベンチャー支援の法律である新規事業法を廃止し、これに支援策を拡充しつつ、平成10年成立の新事業創出促進法と統 合して、「第2章の2 新事業分野開拓の促進」という章を設けた。ここに「新事業分野開拓」とは、事業者がその事業の著しい成長発展を目指して行う事業活 動であって、新商品の生産若しくは新役務の提供又は新技術を利用した商品の生産若しくは販売若しくは役務の提供の方式の改善により、新たな事業分野の開拓 を図るものをいう(同法第2条4項)。新事業分野開拓を実施しようとする者は、当該新事業分野開拓の実施に関する計画(以下、「実施計画)という。)を作 成し、その実施計画が適当である旨の認定を受けると、以下のような支援策を受けることができる。


(1) ストックオプション制度の拡充

ストックオプションは、人材獲得と獲得後の人材のモティベーションの向上のために予め定めた安い価額で企業の株式を買い取る権利を与える制度であるが、商 法においては、取締役および従業員に対し、発行済株式総数の10分の1を限度として与えることができるとされている(商法280条の19①)。これを認定 会社については、付与の上限を3分の1まで拡大し、付与対象者を一定の要件を満たす外部の特定支援者にも拡げた。


付与の上限の拡大は、発行済株式総数の小さいベンチャー企業において、ストックオプション付与の上限が10分の1では、従業員等に 対して十分なボリュームのストックオプションを与えることができないことを改善することを目的としている。たとえば、発行済株式総数200株(資本金 1000万円)の会社において、商法の定める上限によれば、20株分が付与の上限となり、これをすべて1人の使用人に与えて、株価が額面の50倍で株式公 開できたとしても実現する利益は5000万円ほどであり、十分なモティベーションとはならず、ましてや、数人以上に分け与えた場合には、一人当たりの夢は 非常に小さなものとなってしまうのである。また、ストックオプションは、創業経営者の安定持株比率の保持のためにも有用なツールであり、その目的を実現す る上でも、付与上限の拡大は歓迎されるものである。
また、十分な人材を雇用できないベンチャー企業にとって、弁護士、コンサルタントなど外部支援者の活用は欠かせないが、これらの者に良質なサービスを提供 してもらうために、ストックオプションを与えることはアメリカ等では行われてきた。これが日本でも実施できるようになったのである。特定支援者の要件とし ては、企業の成長に必要な知識や技能を提供できる者であり、権利行使条件に、企業の成長の目標に合致した適切な条件が課されていることとなっている。


(2) 無議決権株式の発行要件の緩和

無議決権株式とは、議決権がない代わりに普通株式より優先的な配当が受けられる優先株の一種であり、商法上、その発行上限は、発行 済株式数の3分の1とされてきたものである。これを認定会社については、発行上限を2分の1まで拡大し、累積的優先株(配当不足分を次年度に繰り越せる優 先株)について、議決権復活の期限を1年から3年に延長できることとした。
無議決権株式は、会社の成長による配当や売却益を目的とする外部株主には議決権を行使させずに資金調達を行う手段として用いられるが、この発行上限が3分 の1では、もともとの発行済株式総数の少ない会社においては、十分な資金調達が実施できなかった。この発行上限を2分の1にまで拡大することで、経営陣 は、経営権維持の心配をすることなく資金調達を行い、利益が出始めたのちに、優先配当をもって外部株主に還元するような政策を取りやすくなったのである。


(3) 民間金融機関からの資金調達の円滑化

ベンチャー企業は、設立後間もないため、信用力がなく、また、設備型産業でない場合も多いため、担保がなく事業資金の融資を受けら れないという実態があった。そこで、認定企業に対して、信用保証協会と産業基盤整備基金が審査を行い、ここが債務保証をすることで民間金融機関からの融資 を受けられるような措置が取られた。


信用保証協会の保証制度
対象者:認定事業者であって中小企業者である者
支援策:保証限度額の拡大
一般の中小企業者 認定事業者
普通保証 2億円 普通保証 2億円+2億円
無担保保証 5千万円 無担保保証 5千万円+5千万円
特別小口保証 1千万円 特別小口保証 1千万円
新事業開拓保証 2億円 (うち無担保枠5千万円) 新事業開拓保証 3億円 (うち無担保枠5千万円)

産業基盤整備基金の債務保証制度は、保証限度額15億円で、借入金又は社債発行額の70%の保証をおこなうものとされているが、その適用対象は、信用保証協会の保証枠を全額使用するなど、信用保証協会の信用保証制度では、資金調達が困難な者に限られている。


(4) 事後設立にかかる検査役調査の特例

事後設立とは、現物出資における資本充実の要請から定められている検査役制度を逃れるために設立2年以内に他社から一定以上の財産を譲り受ける場合にも裁判所の選任した検査役の検査を受ける必要がある旨を定めた規則である(商法246条)。しかし、裁判所が選任する検査役は、当該企業を熟知しているとは限らないため、検査に長期間を要する可能性があり、それゆえ、現物出資および事後設立という行為自体が利用されない状況にあった。これに対し、特定投資事業組合からの出資を受けている認定企業に対して、裁判所の選任する検査役検査の代わりに公認会計士、監査法人等の検査に代えることが認められた。 これにより、既存企業から独立して設立されるベンチャーや、新規事業の実施に関して他社から営業や財産を譲受けるベンチャーにおける敏速な事業活動の開始が可能となった。


こうした新事業創出促進法の支援策を受けるに当たっては、実施計画の認定を受ける必要がある。実施計画には、次に掲げる事項を記載する。

① 新事業分野開拓の目標
② 新事業分野開拓の内容
③ 新事業分野開拓の実施時期
④ 新事業分野開拓の実施方法並びに実施に必要な資金の額及びその調達方法


なお、この認定手続において、特定投資事業組合(ベンチャー企業を積極的に指導育成する能力と体制を有する中小企業等投資事業有限 責任組合)が一定以上の出資等を行う企業については、認定手続の一部(事業性・採算性に関する審査)を省略することとして、認定手続の簡素化をしている。 これは、民間ベンチャーキャピタルの審査能力を活用することで、ベンチャーキャピタルの投資審査に加えての実施計画の認定という事務手続によるベンチャー の負担を軽減しようとするものである。
このほか、新事業創出促進法自体の改正項目ではないが、ベンチャー企業に対して、必要な支援を行う能力と体制を備えた特定投資事業組合に対して、産業基盤 整備基金が、新規事業投資株式会社を経由して、ファンドの3分の1までかつ30億円以内の投資を行うこととされた。これは、公的機関が投資をすることで、 機関投資家や個人投資家等からのリスクマネーの「呼び水」としての効果を期待してのものである。
また、エンジェル税制について、抜本的拡充が行われた。現行の損失に関しての特例措置(翌年以降損失を3年間繰り越して、他の株式譲渡益と通算できる)に 加え、個人が取得したベンチャー企業の株式について、株式公開後1年以内に売却した場合に生じる譲渡益を1/4に圧縮することとした。これにより、通常な ら26%の税率が6.5%にまで軽減された効果をもたらすこととなった。

お問い合わせ

お気軽にご相談ください

お見積もりやご相談など、メールフォームでもお問い合わせいただけます。