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佐久間裕幸の著作

バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第14回 会社は売上がいのち

■■なにしろ景気が悪い

政府の発表によれば、日本は持続的な回復基調を続けています。皆さんがこの文章を読まれている時点は、私が原稿を執筆している段階 から1~2か月遅れているとはいえ、官僚はいったん出した統計が間違っていたなどとは言わないから、きっと同じことを言っているに違いありません。しか し、輸出産業、多国籍企業にしてみると1ドル80円の時代から見て、自社の製品は1.5倍の価格競争力を持っているわけで、ソニー、キヤノンのように株価 も高値更新を続けている企業もあります。つまり、チョボチョボの回復基調というのは、一部の絶好調企業と多くの絶不調企業の総合結果であるわけで、内需中 心業種であることが多い中小企業にとって現在は会社始まって以来の不景気だと言えます。


昨年の初冬にある顧問先企業の社長から相談を受けました。「わが社はかつて儲かりすぎて、節税対策しかしてこなかった。しかし、この決算で初めて5000万円を超える赤字を出した。経費のリストラをしたいが、どこから手をつけたらよいのか?」
しかし、中小企業に無駄な経費はありません。会議で発言もせず、決済のハンコを押しているだけの管理職などいるわけもない。1日に何人来客があるか知りま せんが、受付に10坪を超えるスペースを確保し、立派な絨毯を敷き、受付嬢を張りつけたりなどもしていない以上、経費の削減と言えば、社長の報酬を削るく らいしかないのです(馬鹿息子にフェラーリを買い与えているような会社なら問題外ですが)。となると、私は他の方法で改善の助言をしなければなりません。


■■なにゆえ赤字なのか

その会社だけでなく、ほとんどの会社が赤字になる原因というのは、売上数量が減った、売上単価が落ちて粗利率が落ちた、この2つに 絞られるのではないでしょうか。そこで社長に聞いてみました。「受注に際して、値引要請がきついという話は聞いていますが、例えば100万円で見積もりを 出して、90万円で発注するという話を受けたときにそのまま受けていませんか? そこで『92万円にしてもらえないか?』と粘り、結果として91万円で受 注できれば、粗利率で1ポイント近く変わってきます。そうすると売上高が7億円だから、700万円も赤字が減少するんです。」
中小企業にとって700万円のリストラを実施するのは不可能に近いのですが、受注時の価格交渉をちょっとするだけでこれだけの利益に変化が出ます。小さな 修理や手直しについても、取れる代金はきちんと取るといったことでも積み上げると馬鹿にならない売上高になったりします。これなど従来はゼロだったことを 考えると、売上分だけ丸々儲けになるわけです。


この顧問先は建設業に属する工事業だったのですが、私の話をヒントにして、今まで発注が来れば引き受けるといった程度の業者にも営業に行ったり、材料の使 い方の無駄も減らしたり、売上と粗利率の拡大の努力を始めました。おかげで今年の決算は再び黒字に・・・と書きたいところですが、3月までは順調だったも のの4月からの消費税増税のパンチで苦戦して、通期では損益トントンといったところに落ち着きそうです。それでも粗利率は前期の7%から15%に倍増し、 売上は前期と変わらないものの5000万円もの赤字は出さないですみそうです。


■■すべては売上が解決する

自分の会社を興すにしろ、会社の中で新規事業を立ち上げるにしろ、最初の関門は売上高です。例えば、パソコンでサーバーを立ち上げ てホームページで通信販売の副業を始めるにしても、プロバイダへのコストや通信費で年間10万円はかかるでしょうから、粗利ベースで10万円以上になるだ けの売上が必要です。そのためにはホームページの知名度を高める必要がありますから、広告などの費用が必要かもしれません。そうするとその広告代も賄うだ けの売上が必要になります。売上が増えない限り、赤字ですし、売上が大きければ、確実に利益が出てきます。
損益分岐点という考え方をすると売上高の重要性がよく分かります。会社のコストには、材料費や発送運賃のように売上高にほぼ比例して発生するものと、リー ス料、給料、減価償却費のように会社規模が大きく変わらない範囲では売上高とは比例せずに固定的に発生するものがあります。仮に固定費が3000万円、変 動費/売上高の比率が40%とすると以下のグラフのように5000万円以上売り上げると利益が出てきます。これを損益分岐点と言います。
<グラフ(省略)>
そして、固定費を2700万円に引き下げると損益分岐点は4500万円になり、変動費率を35%にする(売上単価を上げる、原価低減をする)と固定費は変わらなくとも4615万円で利益が出てきます。


会社の立ち上げ時に限らず、前節の会社のように企業がそこそこの規模になっても、やはり成長(あるいは衰退からの脱出)のかなめは、売上高です。


損益計算書
売上高 1000
売上原価 800
売上総利益 200
販売費一般管理費 160
営業利益 40
営業外利益 10
営業外費用 30
税引前当期純利益 20

(単位:万円)


損益計算書は一般的にはこのような形になっていますが、売上高が一番金額の桁数が多いわけです。従って、そこで売上が1ポイント伸びたか減ったか は、この 例では粗利率が20%ですから、当期純利益が10ポイント増えるか減るかという大きな影響をもたらします。また、粗利率が0.2ポイント上昇したか下落し たかも当期純利益に対して10ポイントの影響を与えます。それに比べると160万円の販売費一般管理費の中から2万円を減らすというのは相当な工夫が必要 です。家賃や従業員の給料は減らせないし、「無駄な電気は消しましょう」なんて運動で昼休みに部屋の蛍光灯を消したりする会社を見たりしますが、会社の雰 囲気が暗くなりこそすれ、赤字が解消したという話は聞いたことがありません。せいぜい、この連載の8回目で書いたような交際費を削減するくらいではないで しょうか。


■■売上高を増やす工夫

売上高を増やす方法となると業種によってまちまちです。例えば、飲食業であれば、売上高を増やすにしても、来客数を増やす、来客あ たりの売上高(客単価)を上げる、売値を上げるという手が考えられます。売値を下げても下げた以上に来客数が増えるならば、売値を下げるのも売上高を増や す方法になります。マクドナルドの103円セールなどは、これに該当するでしょう。これらのために広告をするというのもすぐに考えつく具体策でしょう。
しかし、意外に認識されていないのが、客単価を上げることではないでしょうか。例えば、ケーキ屋さんでお客さんは平均350円のケーキを3個買っていく お店において、スペシャルイチゴショートケーキを400円で売り始めることで、平均単価が360円になるかもしれません。さらに「新鮮なイチゴがたっぷ り、スペシャルイチゴショートはじめました」というポスターをお店の目立つところに貼ることで、客単価が370円になるかもしません。これで 370/360=2.8ポイントも売上が増えるのです。そのほか、きれいな服装をした来客には「お土産にされるなら、このスペシャルイチゴショートはいか がですか?」と声をかけるだけでも、400円のケーキに誘導することができます。あるいは、買い物の途中で寄ったように見えるお客さんには、ちょっと珍し いケーキを「こんなのも始めましたが、味見がてら1ついかがですか?」と勧めることで3つ買うところが4つ買ってもらえるかもしれません。
マクドナルドへ行くと必ず「お飲物はいかがですか?(ニコッ)」と言われるのは、飲み物も注文させて客単価を上げることを目的としているわけで、店舗オペ レーションのマニュアルには、衛生や店の印象を高める各種の目的に加えて、こうした売上増加の目的も組み込まれているわけです。だてにチェーン店からロイ ヤリティを取っているわけではないわけです。また、カレーライス700円のところ、サラダとコーヒーをつけてランチメニュー850円というのも客単価引き 上げの常套手段です。


飲食業に限らず、あらゆる業種において、売上高を高める工夫というものがあるはずです。この工夫を考えて、実践する、それが経営の醍醐味ではないでしょうか。

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