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佐久間裕幸の著作

バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第1回 やってきたバーチャルカンパニーの波

◆バーチャルカンパニーの時代がやってきた。
ネットワークを介して起業をめざす人も、また、企業内で新しいワークスタイルを目指す人も、いずれもこれまでの組織の枠組みを越えたビジネスの在り方を模索しはじめている。
本連載では、公認会計士・税理士の実務家である筆者が、企業内・外を問わず、新しい時代のビジネスマンに要求される「バーチャルカンパニー」運営のための基礎知識を提供する。(編集部)


■■いろいろあるバーチャルカンパニー

今回から始まる、「バーチャルカンパニー経営術」です。と、書くと本誌の読者の方々は、また「バーチャル×××か……」と呆れられるかもしれません。コトバが先行しがちな昨今、そのうえ「バーチャルカンパニー」となれば、食傷も当然というものです。
しかし、この連載では、もう少し実務に近い側面で「バーチャルカンパニー」の経営を考えてみたいと思い、あえてこのタイトルで迫ってみました。
さて、バーチャルカンパニーといってもいろいろあるわけで、たとえば次のようにまとめることもできるかと思います。


  1. ネットワーク上でのビジネス展開
  2. 自営業や中小企業のバーチャル結合
  3. 企業組織内のバーチャルカンパニー

■ネットワーク上でのビジネス展開

インターネットのホームページにおいて商品を掲示して、注文を集めるようなサイバースペースビジネスなどは、まさにこのタイプのバーチャルカンパニーにあたると思います。
現状では話題先行、利益は後追いという感じで、まだまだビジネスの規模になっていないという印象を受けます。うまくいっているところは、URLの知名度が 高いなどマーケティング面での成功によるものが大きいと思われます。すなわちいかに消費者に存在を知ってもらうか、その手段を模索しているという感じなの でしょう。
電通や博報堂に宣伝してもらうのか(TVと同じ)、バーチャルモールに出展するのか(デパートの地下と同じ)、はたまた検索エンジンなど新しい手段に依ったらいいのか。
ニフティなどのオンラインショップに出展している会社からは、新聞・雑誌、テレビなど他の媒体に広報されたときアクセスが増えるというような声が聞こえて います。また、インターネット上でもプレゼントの提供などを掲示すると反響があったりするものの、応募者のIDを見ると法人IDの人が多いなど、まだまだ 個人がインターネット・ショッピングを活用しているという時代にはなっていないようです。


■自営業や中小企業のバーチャル結合

データ入力や翻訳など、個人でできる仕事は、仕事の波が大きいものです。その変動を調整するため、仕事の受注者とそれに関係する入力業者や翻訳家の集まりが形成されます。これなど、このバーチャル結合のひとつの典型例と思われます。
このほか、「設計士・建築士・施工業者」とか、「弁護士・税理士・社会保険労務士」というような異業種の人たちが集まるカンパニーといった事例もあると思います。
こうした事例では、財布を異にする複数の人たちの利害をいかにして調整し、ひとつの組織体としての形態と実体を維持していくのか、紛争が起きたときの責任 の所在などが議論のテーマになってくると思われます。また、資格業のネットワークに関しては、それぞれの業法の規制に違反しないかどうかの問題もありそう です。逆に業法の規定に時代錯誤があるという可能性もあります。


■企業組織内のバーチャルカンパニー

これは、企業というリアルカンパニーの中で、ネットワークを活用したバーチャルな活動のことと考えることができます。具体的には、ネットワー クの会議室システムなどを利用した新製品の開発プロジェクトや、サテライトオフィス・在宅勤務などがあげられます。プロジェクト組織の応用といえると思い ます。
ここでは、企業内バーチャルカンパニーとリアルカンパニーの意思決定組織の、経営方針との整合性の問題やら、在宅勤務での人事管理の問題などが気になると ころです。また、サテライトオフィスというものは、増えているのでしょうか? 急拡大しているという印象がないのは、どうしてなのでしょうか?
こうして考えると、バーチャルカンパニーと一言でいっても、いろいろな形態が考えられます。また、それぞれので検討のポイントや視角が異なってくることにお気づきでしょう。


■■実務とネットワーカーの立場から……

さて、このような問題提起をしてきた私の簡単な自己紹介をここでしておきたいと思います。
私は、東京で公認会計士・税理士をしており、公認会計士としては会社の株式公開の支援業務を中心に行い、税理士としては会社の設立から帳簿の作成・決算・申告まで行っており、「揺りかごから東証まで」、企業からの相談に乗れる会計士をめざしています。
また、単なる情報収集手段であったパソコン通信熱が高じて、現在はNIFTY-Serveの「ビジネス創造フォーラム」のシスオペを務めています。
ということで、バーチャルカンパニーの在り方を、職業会計人とネットワーカーのふたつの視点から見つめていきたいと考えています。


■■リアルカンパニーもバーチャル化

さて、そんな私の関心からすると、「リアルカンパニーの中でのバーチャル化」という現象はたいへん興味深いものがあります。これまでネットワークを 使っての業務のバーチャル化は、報告・連絡・相談を、口頭や文書から電子メールへ移行することを想定していました。ところが、最近では取締役会のような法定の会 議すら、フェースツーフェースでなくてもよくなってくるなど、バーチャル化が法律面にまでおよんできているのです。


法務省が平成8年4月に公表した「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」によれば、「取締役間の協 議と意見の交換が自由にでき、相手方の反応がよくわかるようになっている場合、すなわち、各取締役の音声と画像が即時に他の取締役に伝わり、適時的確な意見表明ができる仕組みになっていれば、テレビを利用して取締役会議を開くことも可能である」とされています。
従来、取締役会は、実際に出席しなければ「出席」とはいえず、「代理人により議決権を行使することも書面や電話により議決権を行使することも認められな い(通説)」(服部・星川編『基本法コンメンタール会社法1』日本評論社 昭和57年刊)と考えられていました。それが、この法務省の見解により、海外展開している会社などで、アメリカやヨーロッパ担当の取締役が取締役会に出席するためだけに帰国する必要がなくなったわけです。半面、社費で帰国して家族と会う機会が失われるわけですが……。


ちなみにテレビ取締役会については、NEC法務部の牧野英克氏が「商事法務」(1426号)で、必要な仕様としてISDN回線1.5Mbps、30フレーム/秒などと具体的に例示をし、同時に運営、議事録作成、セキュリティなどの留意点を指摘されています。海外からの出席者の議事録への押印をどうする か、ISDNのような公衆回線を利用する場合の不正アクセスをどう防ぐかなど、総務部のルーチンワークの範疇から抜けられない人には対処できない問題が出てきているわけです。


■■バーチャル株主総会はどうか?

取締役会がOKなら株主総会はどうか? 株主総会の場合、株主がテレビで参加してくると真実の株主であるか否かを会社は確かめることができず(株主名簿の記載事項には「株主の写真」などという規定はない)、実質的に大規模な会社での実施は不可能でしょう。


商法第223条(株主名簿の記載事項)
株主名簿には左の事項を記載することを要す
一 株主の氏名及び住所
二 各株主の有する株式の額面無額面の別、種類及び数
三 各株主の有する株式につき株券を発行したるときはその株券の番号
四 各株式の取得の年月日
五 転換株式を発行したるときは第222条の4に掲ぐる事項

しかし、小規模の会社で株主の間に合意があれば、たとえ法律が想定していなくとも実行してしまうことができます。
NIFTY-Serveのフォーラムの中から生まれた株式会社マザーシップ(本社東京港区)という会社では、その第2期、第3期の株主総会をNIFTY- Serveのリアルタイム会議システム上で開催しています。しかし、TVで参加どころか、全員がパソコン通信システムにより参加している以上、本店の所在 地または隣接の市町村で株主総会の開催を求めている商法の規定に違反してしまいます。  
しかし、総会の開催が違法であることによる決議取り消しの訴訟は、3か月以内に株主、取締役または監査役が提訴しなければなりません。株主間の関係が良好であり、全員がネットワークを使えれば、こうしたバーチャルな株主総会の開催も可能なのです。


商法第248条(決議取消の訴の提訴期間)
決議取消の訴は、決議の日より3月内に之を提起することを要す

ちなみにこの株式会社マザーシップは、フォーラムの中で発起人の選定から定款の作成、株主の募集まで行って49人のネットワーカーが株主として集まって設立されたバーチャルカンパニーです。バーチャルカンパニーの究極例として1つのサンプルになる会社だと思っています。 このようにバーチャルカンパニーの思潮は、単なる会社における意思決定だけでなく、法務に関する部分にまで影響をおよぼしはじめ、また中小企業や個人企業にも大きな飛躍の機会を与え始めています。


■■バーチャルカンパニーの運営ツール

このほか、バーチャルカンパニーの展開を支えてきたツールとして電子メールをはじめとする通信手段の拡大があります。しかし、電子ネットワークがもっと仕 事の道具として根づいていくためには、各種の電子ネットワーク上のサービスの拡充も欠かせません。暗号システムなどもその1つだといえるでしょう。
ビジネスを行うという観点では、大事なものは大事に扱うというツールが必要です。郵便でいえば、書留・内容証明郵便に相当する機能が電子メールに入って ほしいものだと思います。書留の機能のうち金銭を送る部分についてはデジタルキャッシュの発達がこれに相当する機能を果たしてくれるようになるかもしれま せん。しかし、確実に届くことを確保する機能については、インターネットのメールの場合、届かなかったりすることがあるという現状をどのように改善してい くのでしょうか。技術的にはいろいろできそうですが、その制度化を楽しみにして待っております。


また、内容証明郵便の機能は、電子公証人制度がこれに相当しそうな状況です。電子公証人制度とは、ユーザーの依頼に基づいて必要な電子データを保管、その 内容を証明する機能を提供するもので、こうした機関が整備されると電子メールやシステム内のデータの改変に関する不安を解消できるようになると思われま す。
ビジネスは、こうしたインフラの上に行うものであり、むやみにネットワークに乗せさえすればよいというものではない以上、こうしたセキュリティに絡む話もバーチャルカンパニーの経営には関係することになるでしょう。


この連載では、そんなバーチャルカンパニーの経営をそれぞれの態様に応じて、また関連するツールの話をあれこれ触れていきたいと思っています。

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