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バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第3回 サテライトオフィス&ホームオフィス

■■求められる背景

最近はやりのSOHOは、スモールオフィス・ホームオフィスの略ですが、今回は、サテライトオフィス&ホームオフィスというSOHOを考えてみたい と思います。一般的なSOHOと混同しやすいので順番を変えてHOSOとすることにしましょう。一般的なSOHOとの違いは、企業の組織内でのサテライト や自宅就業を考えていることです。
サテライトオフィスというのは、会社の本社から離れて、支店とか営業所の規模までいかずに特定の業務を行うために設けられた作業場所のことです。日本のよ うに個人の住宅が広いとは言えない状況ではホームオフィスよりサテライトオフィスの形で企業が場所を用意することも考えられるかと思います。
大阪のような大都会も含め首都圏以外の方には信じられないと思いますが、首都圏では通勤時間1時間半という人も稀ではありません。もちろん片道1時間半で す。24時間のうち3時間が通勤に消費されるより、自宅近くで仕事をして、浮いた時間を家族の団らんや趣味、はたまた仕事が忙しいときのバッファにできた ら考えるのも無理はありません。だいたい時短の流れのなかで残業が連日のころならともかく8時間の勤務のために3時間をかけて通勤するのはあまりに無駄と いうものです。また、それだけ遠くから都心のオフィスに人が集まるというのも通勤電車の混雑や交通渋滞など一極集中の問題につながります。


さらに今後予想される労働市場の現象として次のようなことが挙げられます。


(1)労働人口の減少
(2)若年労働力の不足
(3)高齢労働力の増加
(4)主婦労働力の増加
(5)就労希望を持つ身障者の増加
(6)転職市場の形成

(『ホームワーキング入門』17頁ホームオフィス懇話会著ダイヤモンド社1994年)


これらの現象を考えると「通勤を前提としない就業形態」としてのHOSOは注目すべき存在なのです。


■■HOSOの類型

このHOSOを上掲書を参考にしながら私なりに分類すると図のようになります。


通勤途上サテライト型 複数の社員の自宅と会社の中間地点にサテライトを置くもの
通勤途上サテライト型 複数の社員の自宅と会社の中間地点にサテライトを置くもの
社宅近隣サテライト型 社宅の近隣にサテライトを置くもの
単純ホームオフィス あえて通勤しなくても十分仕事ができるため、在宅勤務にするもの
女性のライフスタイル確立型 出産育児のため通勤できない女性のためのホームオフィス
遠隔地人材活用型 田舎に帰って両親と同居するなど会社から遠距離になった人にも業務を続けてもらうためのホームオフィス
社会参加型 身障者の人が仕事をするためのホームオフィス
ホームネットワーク型 フィールド情報収集のために多くの主婦や学生をネットワーク的に集めるような業務形態での主婦や学生のオフィス
マルチハビテーション型 那須のように東京まで新幹線で通える場所で、職・住・遊を両立させる

このような図にすることでHOSOの雰囲気がイメージできますでしょうか。HOSOとしての基本はあるものの、それぞれの類型に応じて、オフィスのデザインが異なってくるように思います。例えば、女性のライフスタイル確立型では、フレックス勤務と組み合わせて、家事との共存を図ることになるでしょうし、ホームネットワーク型はあまり雇用契約的なものを感じませんので、就業規則によらない管理手法や約束事が必要になるでしょう。


■■HOSOのメリット

ホームオフィスはともかく、サテライトオフィスについては最近あまり話題になっていないように思えます。サテライトオフィスは、1988年の志木サ テライトオフィスの開設に始まると言えます。すでに8年を経過して、FAX,パソコン、LAN、宅急便などが比較にならないほど普及した今日サテライトオ フィスが増加したという印象をお持ちでしょうか。この点を考えるに当たり、まずは、一般に言われるHOSOのメリットと問題点を掲げてみましょう。


(1)生産性の向上
会社の内外からの電話等に煩わされない場所が確保され、仕事の段取りも自分で作ることで創造的な作業に適した時間を作ることができ、通勤時間が減ることで肉体的精神的なゆとりが生まれます。
また、広範囲の営業エリアを持つ会社では、すべての得意先に都心のオフィスから訪問していくよりもサテライトオフィスを多く持つことで移動時間や交通費を含めた業務の効率化が図れます。


(2)オフィスコストの低減
都心にオフィスを置くということは、オフィスの家賃のみならず駐車場の賃借料も含めて多大なコストがかかります。これをHOSOにより引き下げることができます。


(3)一極集中の是正
都心にオフィスがあり、そこに通勤しなければ仕事ができないならば、人も都心の周辺に集まります。HOSOにより、一極集中が緩和され、地域定住化も図れます。


(4)就労機会の増大
会社に出社して9時から5時まで拘束されるために仕事を持つことができなかった育児中の主婦や身体障害者も仕事をする機会ができることになります。


(5)人材活用機会の増大
Uターン、Jターン現象など人材の地方回帰に対して、対応できます。これにより優秀な人材を手放さずにすんだり、長期にわたって雇用することで教育育成のコストならびに採用コストを節減できます。


(6)ゆとりある生活の実現
住まいの場所に関係なく仕事を続けられることで、持ち家を取得したり、家族団らんを増やせたり、地域活動・ボランティア活動への参加が可能になります。 フレックス制との併用があれば、平日の日中に空いているテニスコートやプールを利用して、その分夜間に仕事をするようなことも可能です。


また、HOSOに勤務する男性の家族からは、子供のケガといった緊急時でも夫にすぐ来てもらえるとか夫の服装もラフなものでOKなのでワイシャツのクリー ニング代が助かる、残業の時も夕食は自宅でするので夫の健康管理がしやすいといった声(日本経済新聞1988.6.23夕刊13面)もあるようです。
しかし、(1)の生産性の向上は、思考に集中できる部屋を社内に確保したり、会社として思考集中の時間帯を設定すると言った手法でも達成できる面がありま す。例えば、日本LCAのDIPSという手法等はこうした部分にも着目しているようです。また、オフィスコストもこの数年低下傾向が見られ、そのため一時 分散していたオフィスを都心に集約するような動きも見られます。結局、一極集中の是正や就労機会の増大といった民間企業の視点を超えたマクロ的なメリット が目立っていると感じます。


■■HOSOの問題点

こうしたメリットに対し、デメリットもあります。それゆえ、思ったほどにはHOSOが進まないのかもしれません。


(1)コミュニケーションの困難さ
テレビ会議、電話、ファックス、電子メールとコミュニケーションツールはあっても、対面での雑談や飲みニケーションにおける情報が不足することは否めません。公式な情報はともかく、噂も含む非公式情報などが絶対的に不足すること確実でしょう。「テレビ会議では臨場感がない」といった声がありますが、マルチメディアの社会とはいえ、場の空気や息遣いのようなものまでは現状では伝達できないといえましょう。


(2)管理および評価の困難さ
対面の機会が少ないということで、上司から見てHOSOにいる部下の仕事の管理がしにくかったり、評価の上で困惑したりすることもあるようです。日本では仕事の成果より残業時間、勤務態度、年功などで評価する傾向があるため、HOSOの部下を評価しにくいということがあるかもしれません。


(3)自己管理の難しさ
公私の区別や時間管理など上司と一緒でないだけに、自己管理の必要性が増すことになります。ところが、こうした適性がないために仕事の成果を出せなかったり、上述の評価の問題を知っているが故に結局フレックスな就業ができずにHOSOのメリットを出しきれない面があるようです。


(4)設備費用・運営費用
電話機、ファックス、コピー、パソコン、机、部屋の賃借敷金権利金などHOSOの立ち上げには支出が必要です。また、ホームオフィスにおける部屋の使用料、通信費、光熱費、事務用品費などの取り決めが必要であり、この辺りの決め方によっては、HOSOは、企業にとって非常にコストのかかるものになってしまいます。さらに社内便とか社内メールといったもので運ばれていた物的な書類や小物のやり取りに不便があります。かつて私が所属していた事務所では高層ビルの14階と32階にオフィスがあり、14階が現業部門、32階が管理部門となっており、一種のサテライト状態といえましたが、いざやりとりをすると非常に不便でありました。エレベーターの乗り継ぎのため、書類を届けるだけの往復で約10分を要し、それを避けるために14階から32階へ電話代を払ってFAXをするといった無駄が少なくありませんでした。たかがフロアの違いでこうですから、かなりの書類が電子化された会社でないと、デリバリーコストが膨大にかかります。


NTTが東京近郊に設置したサテライトオフィスでの社員の意識調査によれば、サテライトオフィスへの勤務が週3~4日が41%、週1~2日が32%を占め、50%の人が「当初予想したほど利用できなかった」と答え、上司のサイドでも「指示や指導がタイムリーにできない」「会議を設定しにくい」などの声が上げられたといいます(日本経済新聞1993.8.11朝刊10面)。
こうした問題点を考えると、女性のライフスタイル確立型、遠隔地人材活用型、社会参加型、ホームネットワーク型のような形態でデータ入力やデザインの作成などをHOSOに常勤で行うという形態なら問題点が出にくく、いわゆるサテライトオフィス、単純ホームオフィス型、マルチハビテーション型のホームオフィスで出世競争に直面する企業戦士が勤務すると問題点が生じやすいといえるかもしれません。
志木サテライトオフィス以来サテライトオフィスに熱心なある会社の従業員にインタビューしたところ、デザイン部門などの人はサテライトオフィスで仕事をしているが、その他の職種の場合、必要に応じてサテライトオフィスの空室を利用するような形態になっているといいます。それであれば、根を詰める仕事をする際に会議室や応接室を借りてこもって仕事をするのと変わりはないことになります。


■■会社が用意するからコストになる・・・

これらの問題点のなかで、(1)から(3)は主として従業員側の問題であり、会社としてトータル的にプラスが多ければこれらのデメリットは無視されるはず です。結局企業としてサテライトオフィスが進まない主要因は(4)の設備費用・運営費用の問題なのではないでしょうか。考えるに、上記4つの問題点は、会社の従業員がHOSOにいるから出てくる問題なのだと言えないでしょうか。会社に雇われて出世競争の中にいるから非公式な人事情報などにも耳を傾けざるを得ない。会社に雇われているから、残業時間や勤務態度で評価されてしまう。評価されると思うから、9時~5時まで仕事ではなく仕事の場に縛られてしまう。雇われているから、電話機なども揃えてもらい、通信費や光熱費を会社に負担してもらおうと考えてしまう・・・というわけです。
HOSOに向いた仕事は企画など属人的な発想に依存する創造性の高い仕事、デザイン・入力などデータ処理的な仕事、営業の仕事といわれます(『ホームワーキング入門』138~140頁ホームオフィス懇話会著ダイヤモンド社1994年)。創造性の高い仕事についている人などは、会社に通勤していてすら、成果を見てくれない人事評価制度に不満を持ってることでしょう。それなら独立してしまったらどうでしょう。


滋賀大学助教授太田肇氏の『個人尊重の組織論』(中公新書1996年)では、ホワイトカラーの間で、終身雇用制や年功序列を前提に会社が伸びれば自分にもプラスになるという組織人的な企業への関わり方から、自己実現等は自分の仕事の成果から得ようとし、企業にはその仕事に必要な身分の保障、資金、設備、情報、権限などを求め、それが得られる範囲で企業と関わる関わり方へと変貌が始まっているという論証がされています。こうした動きのなかでHOSOを考えるならば、会社員としてHOSOにいて、情報不足に悩みながら極力用事を作っては本社に出ていくような生活をするよりも、独立してSOHOで仕事をして、外注業者として会社と接していく方が問題が少ないのではなかろうか。


例えば、あなたが○○株式会社の宣伝企画をプランニングする会社、あるいはあるエリアに対する営業活動を受託する会社を起こしたとしましょう。自宅の一室を仕事部屋にするので、本来なら3LDKで十分なところ4LDKの部屋を借ります。1部屋増えても家賃はせいぜい数万円の増加でしょう。それに光熱費や通信費を乗せて、そうした事務作業も行う作業料も合わせて従来の給与に上乗せして、会社と外注契約すればよいわけです。
会社側にとっても人事管理やHOSOの各種設備の管理手数が無くなるのですから、悪い話ではありません。一般的に従業員を1人雇うと、支払う給与と同額の費用がかかると言われます。社会保険料、雇用保険などの法定福利費、退職年金の支払いや退職給与引当金の積み立て、社員会などへの会社負担額、机やロッカーをおくスペース、1人1台のパソコンやら内線電話の設置など・・・。こうしたことを総合的に考えられる会社なら、業務のアウトソーシングをもっと積極 的に考えることでしょう。
外注業者になれば、「同じ部屋の人が忙しそうにしているときに協調して残業しているか」とか「会社の行事(運動会、忘年会など)に欠かさず参加しているか」といった人事評価からも逃れられますし、従来通勤時間に充てていた分を他社からの受注に回してもよいし、趣味その他に充てることもできます。出世競争の不安もないし、お仕着せの就業規則も無くなります。


ということで、HOSOの話としては、やや尻切れとんぼですが、むしろSOHOの方が良さそうだという方向性が見えてきました。いよいよ次回からはバーチャルカンパニー経営術というタイトル通りのお話をお届けすることといたしましょう。

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