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佐久間裕幸の著作

バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第11回 成功する販売戦略とは

どのように販売するか、顧客を増やすか、つかんだ顧客を放さないか・・・これは企業にとって永遠のテーマだと思います。大企業ともなれば、それなり に営業手法については研究もしているし、過去の蓄積もあるし、営業の成果については市場調査をかけることもできます。しかし、中小企業においては、オー ナーの「えい、やっ!」という気合い一発で営業手法の選択が行われがちです。マーケティングは私の専門分野ではないものの、多くの企業に関与したり、話を 聞ける立場にあるものとして、今回は営業について触れてみたいと思います。


■■マイレージプログラム

日本の航空会社ではこの春からマイレージを国内線に導入するという大戦略が決行された。しかし、このマイレージ・プログラム、日本 の航空会社とアメリカの航空会社とではプログラムの仕組みに違いが見られます。ユナイテッドなどアメリカの航空会社の場合、格安航空券であろうとパッケー ジツアーのチケットであろうと、マイレージの加算の対象になっています。これに対して、日本の各社の場合は、正規に購入したチケットでないとマイレージの 対象とはなっていないようです。これは、日本の航空会社がケチとかケチじゃないという問題ではなく、どういう顧客をターゲットとしてマイレージプログラム を運営しているかの違いではないかと思います。
おそらく日本の航空会社の場合、「いかに正規料金ないし自社のルートを通してチケットを買わせるか」が課題になって運営されているのだと思います。すなわ ち販売価格の維持がテーマになっているのではないでしょうか。これに対して、米国航空会社の場合、一度でも自社の路線に乗った客を次回以降も自社に引きつ けるための戦略であるように見えます。たまたまパッケージツアーでノースウェストに乗って、搭乗手続の時に簡単にマイレージに申し込みができて、6~7千 マイルの貯金ができた。そうなると、もう一度海外に行くときにもノースウェストを使えば、東南アジアくらい行けるかもしれない・・・と思えば、またノース ウェストを使うことを前提に旅行日程を組むことになるでしょう。また、こうして顧客のリストを手に入れるチャンスを増やすことで、ダイレクトメール等を 送って、自社の利用を呼びかけることもできるでしょう。すなわち、米国航空会社のマイレージは、顧客の獲得と維持が目的になっているといえるでしょう。
私も以前、キャセイ航空(これは米国ではなく香港の会社ですが)に乗って、無料で台北往復航空券をもらったことがあります。その後も、おりおりにダイレク トメールが届き、「エコノミークラスにもプライベートテレビシステムが入った」とか「ファーストクラスの食事に会席風の食事が導入された」といったことを 知らせてくれます。そうすると「そんなサービスがあるなら、今度もキャセイを使おうか」と考えてしまったりするのが人情というものです。


■■通信販売、ダイレクトメール

通信販売は、無店舗で商品を販売できるため、店舗コストが不要であるということで中小企業がやりたい誘惑に駆られる販売手法だと思います。 特にインターネットが普及している今日、ホームページを使った通信販売など非常に魅力的に映ります。しかし、以前にもこの連載で触れましたが、インター ネットを利用したショップで利益の出ているところはほとんどないと思います。日本より進んでいるアメリカの有名な書籍の通信販売のアマゾンドットコム社で すら、まだ赤字であるといいます(もちろん、あの知名度と規模とサービスの優秀さがあれば、やがて黒字に転換するでしょうけど)。また、通信販売の手法の 1つであるダイレクトメールも消費者に直接アクセスする手段であるため、効率的な販売手法であるように見えます。


アマゾン・ドット・コム社の損益計算書
95年度 96年度
売上高 511 15,746
経常損失 304 5,777
当期損失 303 5,777

(単位:千US$)


しかしながら、雑誌などに高い広告料を払って通信販売のページを置いたり、1通80円でダイレクトメールを出しても、リアクションの率が低ければお金をど ぶに捨てるようなものであることに注意が必要です。例えば、粗利率4割の商品を売ろうとしてダイレクトメールを1000通出すと郵便代金が8万円かかりま す。20万円販売できて、この郵送費をペイできます。ダイレクトメールの中味の印刷代などを考えると当然これ以上販売できなければなりません。このダイレ クトメールを受け取った人の1%が購入してくれるとすると1人当たり2万円以上の買い物をしてくれても印刷代の分だけ赤字であることがおわかりでしょう。 逆に言えば、反応率1%ではだめで、これを3%,5%と高められなければ、通信販売やダイレクトメールは効果が出ないことになります。
育児雑誌にベビー用品の通販のページを設ける、生まれたばかりの男の子を持つ家庭の名簿を入手して、鯉のぼりや5月人形のカタログを送る、さらに、これに よって購入してくれた人の名簿をメンテナンスして、ダイレクトメールを送る(なぜなら、一度購入したということは、通信販売で購入する習慣のある人だとい うことがわかっているし、その会社へのそれなりの信頼を持ってくれていると期待できるから)・・・こうした顧客の絞り込みをしなければ、採算が合わないは ずなのです。
さらに、カタログなどで商品の概要などが伝わる商品、パソコン、文具などや、衣料品のように質感が十分には伝わらなくても日常衣料であれば安ければ買ってくれるといった通信販売に適した商品と適さない商品があることにも留意が必要でしょう。


■■フランチャイズ、代理店

飲食店などでは出店コストがかさむため直営店で店舗展開するより、店舗の運営マニュアルを充実してフランチャイズ加盟店を募集する ことで短い期間で大量出店を果たすことができます。しかし、店舗の運営マニュアルが充実していなかったり、運営の研修制度、運営状況のコントロールがしっ かりしていないとモラルの低いフランチャイズによって店舗やサービスのイメージが傷つけられてしまう恐れがあります。一見、見えにくいコストだけにフラン チャイズの本部になろうとする場合には注意が必要でしょう。フランチャイズによって急速に出店して、大量仕入れを実現し、低価格での商品提供ができると いった材料仕入などに規模の経済性が働くような場合には、フランチャイズ方式の選択が必須といえるでしょう。例えば、昨年あたりからセブン-イレブンが関 西地区に新たに出店していると思いますが、あれほど資金力がある会社になってもフランチャイズ方式を取るのは、それなりの背景があります。例えば、セブン -イレブンが供給するお弁当を作るためには50億円規模の工場を仕入先である食品製造会社に建設してもらう必要があり、そのため、この工場を短期間でフル 稼働に到達させるだけの出店をする必要があるのです。


フランチャイズと似ているものに代理店方式の展開があります。化粧品・健康食品などを販売する販売代理店を募集して、この代理店に 商品を販売してもらうという方式です。これは、流通経路を大手が押さえ込んでいる場合など、後発の業者が参入するには、別のルートを探す必要があるという ことなのでしょう。そして、既存の大手企業が商品イメージを創造・維持するために多額の広告宣伝費を投下している代わりに、代理店にマージンを払うことに なります。このマージンが大きくないと販売代理店が集まらないことになります。同時に多額の広告宣伝費を投下できない分、販売代理店の口コミで販売促進を 行うことになります。それだけに、口コミ情報に乗りやすい商品でなければ代理店方式は機能しません。化粧品や健康食品は、これらの条件を充たしているため に読者の皆さんがすぐにも思いつくような会社がこれらの商品で代理店方式を採用しているのです。


つまり化粧品や健康食品は、大雑把に言えば練り物の中に香料、色素、栄養素などをごく微量に混入させる製品であり、一般的な末端小 売価格に対して原価がきわめて少額です。化粧水などは、中味より、箱の方が高くて、それより瓶代の方が高いと言われるくらいの商品です。同時に美容や健康 という多くの人の関心事です。みのもんたのお昼の番組を見れば毎日のように健康法が連呼され、あの番組に取り上げられるとスーパーマーケットでその品物が 売り切れると言われます。そういう商品特性をもったものでなければ、代理店方式は成功しないといえるでしょう。
このようにフランチャイズにしろ、代理店にしろ、そうした販売手法を選択するだけの必然性や必要条件が厳然として存在するということが言えましょう。


■■営業は科学

このように考えてみると、販売や営業は科学であるような気がしてくると思います。気力と根性で戸別訪問すれば売れるというものではない し、金をつぎ込んできれいなカタログを作って送りつければ売れるというものではないということがわかるでしょう。さらに最近の企業の成功例を見ているとサ ポートが良いから売れるといった販売方式以外での成功要因も目にします。通信販売など顧客との接点が少ない販売方式ほど電話の受注時の対応、クレームへの 対応、使用方法などのサポート体制の良し悪しが問われます。「わが社は金がないから、通信販売でいくか」といったデモシカ販売戦略では竹槍でB29に向か うようなものと言えましょう。このように考えると、「会社を興すなんてとても怖くてできやしない」と思われるのではないでしょうか。私もたまにそう思うこ ともあるだけに経営者というのはつくづく立派だと思うし、そういう人たちを支援する自分の仕事の意味があると思っています。

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