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佐久間裕幸の著作

バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第10回 ネットワークベンチャーの「競争」と「共生」

■■これが時代か

私の顧問先の社長に大学生の起業家がいます。もともとはアルバイト先でインターネットのホームページ作成のニーズがあることをキャッチして、友人たちと共 同で仕事を引き受けているうちに、毎月100万円以上のお金が入ってくるようになり、同時に大手企業から受注するには会社組織でないとまずいということで 有限会社を設立することしました。この社長は、2歩先を先を読んでいるのか、最初の設立手続の相談の際に「やがてインターネットホームページの作成では食 べられない日が来るかもしれないが、会社を潰すのはたいへんなのだろうか」という質問をされました。会社を設立する前から、その会社を潰すことまで考える というのも気が早いような気がしますが、そこまで読んでビジネスをする時代なのかもしれないと思ったものでした。実際、アメリカで成功している新興企業、 例えばパソコン販売ならコンパック、デル、ゲートウェイといった会社は、設立から5年内で売上高1000億円前後を実現し、さらにその数年後には、売上高 を3倍以上にしているようです。これは、会社の設立当初から全米に販売し、続いて世界に向けて販売するというシナリオを描いて、経営をしてきたから実現で きる数字だと思います。

87 88 89 90 91 92 93 94 95 96
Millionドル 1.5 12 70 275 626 1100 1700 2700 3700 5040

私が日本の株式公開準備中の企業を見ていると、数十億円の売上が倍になったところで管理システムが売上の増加に対応できなくなったり、会社の規模に見合っ た人材がいなくて必要な経営管理ができなくなったりして、成長が数年間停滞したりすることがあります。かつて将棋の米長邦雄氏が「私も最近は弱くなってし まったが、若い頃は最初の7六歩を指した段階で相手の投了まで読みきっていましたよ」などという冗談を披露されていましたが、経営においてはそういう感覚 が求められているのかもしれません。日本でもアメリカのMBA取得者が増えてきたり、社会人向けのビジネススクールが出てきていることもあり、「経営は アートか、サイエンスか?」という質問に「サイエンスである」と答える人が増えてきた印象があります。私自身がどう答えるかは別として、こういう傾向はア メリカ的なベンチャー企業が日本にも誕生する前触れの暗示かもしれませんし、アキアのような会社もすでに出てきています。


■■新たなる競争相手の出現

さて、その学生社長の会社ができて半年ほど経過した先日、社長と話していると、多くのホームページの制作業者は、実作業を大学生のアルバ イトに流すような形でコストを圧縮しており、通常の会社が参入しても採算が取れないような価格競争時代に入っているという話をしてくれました。実際、彼の 会社も大阪の顧客の仕事の立ち上げのために4人で大阪まで行くのに1台の自家用車に乗って、東京から東名・名神高速を飛ばしていったのだそうです。確かに 新幹線より安く上がりますが、「出張旅費は経理で精算するもので精算額とチケットショップへの支払の差額はポケットに」という感覚に慣れきってしまった社 会人には、とても真似のできないやり方でしょう。一事が万事この感覚で進めれば、一般の会社なら原価割れの水準でも十分利益を出してしまうのだと思いま す。


もうひとつ別の話をご紹介しましょう。私がお世話させていただいているニフティサーブのビジネス創造フォーラムでは、3月より「女性のた めのたおやか起業塾」という会議室が開かれています。ここには、女性社長はもちろんですが、女性だけの会社の従業員、個人事業でやってきたデザイナーさん など多くの女性が活発な発言をしています。そういう発言を読んでいると生計を維持するための仕事だけでなく、子供がいるから9時5時での仕事はできない が、自分の能力を活かせる仕事を家庭の中でできる範囲で続けている女性たちが非常に多いことに気づきます。翻訳、デザイン、イラストといった仕事なら、打 ち合わせと実作業並びに納品のすべてをパソコンと通信で行えば、家庭の中でも仕事ができてしまいます。彼女たちは、作業状況を家庭生活の状態に応じてフレ キシブルに変動させることができますから、例えば子供が生まれた直後は、仕事の受注を減らすでしょうし、同業同志のネットワークの中で仕事を回して、お互 いの受注能力に応じた仕事をしているようです。既存企業のように「設備投資を回収できるだけ仕事量は確保するように」とか「余剰人員を生まないように」と いった操業条件をクリアする必要がないのです。この柔軟さは、学生企業と同じく価格破壊の要因になると思います。


さらにこの5月に名古屋で車いすの青年がインターネットホームページの作成やコンサルティングを事業目的とする会社を設立しました。無理 して多額の資本金にする必要もないので合資会社という形態を選択しました。天文学の権威のホーキンス博士が同じく車いすですが、パソコンの性能向上とネッ トワークの普及は、体に障害を持った人たちに社会参加する途を開いてくれています。優秀な頭脳を持ちながら、従来は障害者として社会から擁護される立場だ と思われていた相当数の人たちがビジネス社会に参入してくることになります。彼らも主婦と同様、自分の体の障害度合いに応じて、完全な社会人として活躍す る人もいるし、最低限の社会経験をするための範囲で活動する人もいることでしょう。


以上は、私の身の回りの体験で得られた情報から書いていますが、もうひとつの参入可能性は、会社を定年退職した後の年齢のビジネスマンです。体力の衰えか ら外を飛び回るような仕事はできないし、ハローワークへ行っても自分の能力を生かせるような求人はないといった悩みを持つ人たちがネットワークを活用した ビジネスを始めることでしょう。「パソコンを駆使する70才」というのは、まだイメージが湧きませんが、それでもビジネス創造フォーラムの自己紹介コー ナーには、ポツリポツリと60才以上の年齢の方が登場してきています。会社にパソコンが急速に普及しましたので、この数年にこうした「情報化高齢者による ビジネス」が登場することは間違いないでしょう。
こうした現象は、単純に競争相手(すなわち供給者)の増加を招くだけでなく、利潤追求が目的でない相手も混在しているために、ネットワーク活用ビジネスの 価格破壊要因になると思います。明るい未来と思われている情報社会は、実はきわめて厳しい完全競争市場の環境の下に置かれることになるのではないでしょう か。


■■彼らは競合者か共生者か搾取対象か

このように書くと既存の企業、すなわち体制派は、「困ったなあ、それでなくても競争は厳しいのに」と思われるかもしれません。しかし、この発想こそ が問題であり、こうした新勢力とのタイアップによって、既存組織の弱点を補っていくという方向性を模索すべきなのだと思います。一種のアウトソーシング先 としての新勢力として考えれば、実に期待すべき競合者です。かつてIBMがパソコンを作るにあたって、ハードの心臓部分にはインテルのMPUを採用し、 OSは、マイクロソフトという名の学生ベンチャーに委嘱したことはnetPCの読者なら誰でもご存じのことです。これは、当時IBMのパソコン開発部門 は、IBMの本流ではなかったからできたことだとも言われているようですが、現にアメリカでは成功事例があることになります。その頃に比べて、遠隔地間で のコミュニケーション能力が飛躍的に高まっているのですから、こうしたタイアップ形態を取らないのは、自らの首を締めるようなものでしょう。すなわち、彼 らは競合者ではなく共生者なのだと考えたいと思います。社内の複数のセクションから集まった人たちでプロジェクト的に進むバーチャルカンパニーも良いので すが、特定の会社をコアにして、多数の外部の小企業や個人事業者が参加するバーチャルカンパニーをスタートすることを検討すべき時代なのでしょう。


と書いている半面、実はこれに似た現象も目にすることがあります。すなわち、企画やプロトタイプの制作を外部の中小企業と進めるような場合です。中 小企業側としては、企画がうまくまとまれば、大きな受注が取れるということで無償で協力したりします。しかし、大きな企業では担当者の構想が必ず採用され るとは限りません。そうなると中小企業としては「うまく行けば」という餌を見せられただけで結局はただ働きという結果になることも少なくないでしょう。こ の手の話をマルチメディア開発周辺の会社の中でよく見かけるような気がするのは私だけなのでしょうか。限られた企画開発予算の節約のノウハウの1つとして のアウトソーシング(?)になってしまっているように思うのです。


既存企業と小規模事業者が対等の関係で取引をして、結果として双方が潤う、そういう共生関係が実現したときに、日本でも有力なベンチャーが続々と誕生してくるのではないかと考えています。

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