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バーチャルカンパニー経営術

ASCII月刊「netPC」連載記事

ビジネスマンのための――バーチャルカンパニー経営術

第9回 紙ベースの書類保存が減る時代

■■動き出した行政のペーパーレス

本誌のテーマそのものですが、時代はネットワークであり、世間ではEDI(Electronic Data Interchange)だのEC(Electronic Commerce)だのと急速に動き始めています。ところが、我が国の法律の体系は、こうした情報通信の発展を想定していないため、こうした取引形態の変 化があっても、法律的な絡みのある部分では、多くの場合、紙ベースの処理を同時に行うことが必要となっています。また、情報化の立ち遅れた行政の対応も紙 ベースでの申請や申告を求める方式が中心であると言えます。こうした結果、民間企業の情報通信基盤への投資が立ち遅れ、ボーダーレス化の進む経済環境下で の国際競争力の低下が危惧される状態になっていると言えましょう。さらに、紙ベースの書類が前提になっていると、その作成・保存に大きなコストと事務の不 効率が生まれます。さらには、紙資源の浪費も気になるところです。

こうした事態を考慮して、高度情報通信社会推進本部という組織が総務庁を事務局として作られており、昨年6月に「制度見直し作業部 会報告書」が発表されて以来、各省庁で見直しに向かっての検討が進められてきています。そこで、ネットワーク社会に生きるバーチャルカンパニーの担い手と してはこうした動向を把握しておくのも必要かと思い、今回は、法律・行政の情報化について書いてみたいと思います。


■■始まりつつある情報化

行政や法律の改正により一部では情報化も始まっています。上述の報告書から抜粋して見ましょう。


  • 古物営業法における古物商及び古物市場主が保存義務を負っている「古物の取引に係る事項の記録」について、電磁的記録での保存を認めている(古物営業法)。
  • 商法における商業帳簿等の保存について、書面によって保存するとは書かれていないため、電磁的記録によって保存することが認められることを確認(法務省見解)
  • X線写真等医用画像情報の保存を電子媒体によることが認められている(厚生省通達)
  • 特許申請におけるオンライン及びFDでの出願(特許庁)
  • 通関情報処理システムでは、通関業者が端末機から申告事項を入力することで通貨換算、課税計算等を行い、通関士が確認の後、税関に送信することで申告が完了する(大蔵省)

しかし、こうした事例はあっても、商業帳簿の保管の場合、法務省は電磁的記録OKと言っても税務調査を行う国税庁の見解ではNGであるため、企業は 引き続き紙媒体での保管を余儀なくされています。特許の申請もどんなパソコン端末でもOKというわけではなく、特定の機械を導入する必要があり、その導入 費用を考えると個人やベンチャー企業が利用できるという制度というわけでないという話を聞いたことがあります。その意味では、「情報化の第一歩」でしか過 ぎないということなのでしょう。それゆえ報告書では、書類の電子データによる保存に関する進捗状況を各省庁が年1回、内閣官房内閣内制審議室に報告するこ ととし、これを取りまとめて高度情報通信社会推進本部に報告すると共に公表されることとしています。


■■そして1年が経って

この3月までに私の知る範囲でも国税庁の「帳簿書類の保存等の在り方について」、法務省の「電子取引法制に関する研究会の中間報告について」、閣議 決定「申請負担軽減対策」などが公表され、少なくとも検討の領域では着々と情報化が動き始めています。こうした動きは、法律等の形になってから対応しても よいと思えるかもしれませんが、検討の方向性を知っておくことで、新しいビジネスチャンスを見いだしたり、企業内での各種の議論におけるリーダーシップを 発揮できるように思います。公認会計士であり税理士である筆者としては国税庁の報告書の方により大きな関心がありますが、本稿では法務省の中間報告につい て書いていきたいと思います。


■電子認証制度

電子認証制度とは、電子取引や電子申請において、取引又は申請の相手方を特定すると共に、現に電子取引又は電子申請に係る電子情報の作成者がその特 定された会社又は本人であるのか、さらに、相手方が会社である場合には、電子情報の作成者がその会社の代表権限を有するものであるのか等について、証明権 限を 有する期間が証明する制度と言えます。
我々が通常の業務において、新しい会社と取引をはじめるにあたっては、まず相手が本当に存在する会社であるかどうかを確かめてから具体的な取引に入ると思 います。万一、取引相手が架空の会社であったりすると、販売代金を回収できないと言った事故が起きたりするからです。そのため、新規の取引に際しては、相 手の会社の会社案内や商品カタログをもらったり、こちらから電話をしてみたりして相手の存在を確かめたりしますが、もっとも信頼のおける確認手段が法人登 記簿謄本の入手でしょう。これを入手することで、相手の会社の設立日、資本金、事業内容、取締役名、代表取締役などを知ることができます。また、大きな取 引に際しては、契約書を交わし、会社の印鑑証明書を取得したりします。これにより、契約書に押された印鑑が相手の会社の正規の代表印であることが確かめら れ、これにより契約は相手の会社の従業員が勝手にやったのではなく、会社に帰属する契約であることが確かめられます。
電子取引においても、取引の相手の実在性あるいは資格や権限の存在を確かめる手段として電子証明書とでも言うべき認証主体の電子署名の入った電子データが使われるということが考えられるわけです。
個人ベースで考えても、住民票に代わる電子証明書が生まれれば、例えば銀行口座の開設でも完全にオンラインで進めることができるわけです。


■電子公証制度

電子公証制度とは、電子的に作成された契約書等が特定のものによって真正に作成されたことを公証するほか、これに確定日付を付し、また、電子的な記録の形で公正証書を作成し、かつ、これらの電子文書を保存し、その存在、内容等を証明する制度です。
例えば、会社間で金銭の貸し借りをした際に、借り主が期限に返済をしようといない場合、貸主としては、裁判を起こして、貸し金の返済を受ける権利があるこ とを証明しないと強制執行などをかけることはできません。金銭消費貸借契約書は、裁判において金銭の貸し付けがあったことを証明する証拠の1つに過ぎませ ん。しかし、公証人の前で公正証書を作成して、その中で返済をしない場合は強制執行をかけてもよいと定めることで、自動的に強制執行をかけることができる わけです。大きな契約を締結する場合や遺言書を作成する場合にも公証人役場を使うことがあります。
電子取引において契約を締結する場合などにも上述のように「いつ、どのような契約が行われたかを証明し、その内容が第三者に保管される」という機能が求め られるわけです。電子データの場合、データの内容の改ざんが容易であり、また改ざんの後が残らないことを考えると電子公証制度は現在の公証人制度よりも活 用される可能性もあるかもしれません。


これら電子認証と電子公証を組み合わせると現状の契約作業のほとんどをオンラインで行うことができるようになると思われます。


【図表が入る】
(1)両者は、認証局より電子証明書を発行してもら。
(2)電子証明書を交換して、取引の相手方の真正性を確認する。
(3)双方のやり取りの結果として契約の内容を確定する。
(4)確定した内容を互いに公証局へ送信する。
(5)公証局は、送られた契約内容の一致を確かめ、契約の成立と、違法性のないこと等を確認し、認証文言と確定日付を付した上で、公証人のデータベースに保管するとともに両者へ送付する。


こうした取引が現実のものとなる日も遠くはないと思われます。その時には、電子署名や暗号技術が実用化されているということになります。

 

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