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佐久間裕幸の著作

電子取引データ保存と仕入税額控除の問題点

ぎょうせい「税理」99年7月号 [疑問の実務]

電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)が昨年7月に施行され、施行から 半年しか経過していない昨年12月末までに3800件の電子保存の届出が出されている。また、同法により企業がEDI取引など電子取引をしている場合にお いて、従来は保存義務がなかった電子取引データの保存義務が発生している。本稿は、企業が自社が受け取る請求書等について電子取引を行っている場合におけ る消費税法第30条第7項の「帳簿及び請求書等の保存」規定との関係で想起される疑問点について私見を述べると共に、それについて読者諸賢への問題提起を するものである。



1 電子取引データ保存の概要

電子帳簿保存法第10条によれば、所得税及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合に、大蔵省令で定めるところにより、 当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。たとえば、仕入取引において、仕入先から納品書や請求書の代わりに磁気テープや通信回 線により仕入の明細を受け取り、仕入額を計上し、支払いを行っている場合に仕入明細データを保存する義務が発生するのである。


ただし、この規定により保存されている電磁的記録に対する、他の国税に関する法律の規定の適用については、当該電磁的記録は国税関 係書類以外の書類と見なす(同法第11条第2項)とされている。ちなみに「国税関係書類」とは、「国税に関する法律の規定により、保存をしなければならな いとされている書類をいう」と定義されている(電子帳簿保存法第2条二号)。


したがって、電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、それが保存されていなくても青色申告取消しの原因とならないことになる。これ は電子取引のデータは書面ではないため、従来、法人税法その他の国税が保存義務を定めてこなかったものであることから、その位置づけを継続する趣旨である と考えられる。しかしながら、保存義務のある国税関係書類以外の書類というものが生まれたことで、消費税法第30条の仕入税額控除との関係において以下の ような疑問が想起されるのである。



2 疑問1 電子取引に係る取引情報の電磁的記録は、消費税法30条7項の請求書等に該当するのか否か

消費税法は、第30条7項で帳簿及び請求書等の保存を規定し、同条第9項で請求書等の定義を行っている。ここでは「第7項に規定す る請求書等とは、次に掲げる書類をいう」と定めている。ここで同条第7項が保存すべきとしている請求書等の「書類」が、「国税に関する法律の規定により、 保存をしなければならないとされている書類」であるとすれば、電子取引に係る取引情報の電磁的記録は、消費税法第30条第7項の請求書等に該当しないこと になる(以下、「電子データ請求書等非該当説」とする)。逆に同条9項の「書類」は、請求書等の例示において使われた文言であるから、国税関係書類として の「書類」ではないと解されるかもしれない(。この場合、電子取引データは、電子帳簿保存法では国税関係書類ではないされているにも関わらず、消費税法上 は、保存義務のある、すなわち課税仕入取引について仕入税額控除の要件を構成する書類であることになる「電子データ=請求書等説」とする)。


税法の条文中で「書類」と書かれている場合に、どの場合に「国税関係書類」と解釈し、どの場合にしないのかは、不明確である。ただし、一般的には、書類の保存について規定している条文における「書類」は、国税関係書類と解すべきではないだろうか。


もし、電子データ=請求書等説を採るとすると、従来保存義務がなかったEDI取引データの保存義務が定められた途端に、消費税法に おける仕入税額控除の要件を構成することとなり、企業にとっての負担はあまりにも大きいことになる。これだけの大きな影響を及ぼす法律の施行が、3月末の 法案可決から3か月ほどの時間しか経過していない7月1日からとされたのでは、企業は対応することができない。経理だけの問題ではなく、情報処理システム についての修正を要する問題であるからである。また、こうした大きな影響をもたらさないために電子帳簿保存法第11条第2項があるのだと考えれば、私見で は、電子データ請求書等非該当説を採るべきということになる。


さて、こうなると、仕入取引において、電子取引を行っているために紙の書類の授受をしていない企業の場合、消費税法に定める請求書等が当初から存在していないということになり、ここにおいて次の疑問が発生することになる。



3 疑問2 電子取引を行っている場合、仕入税額控除はできるのか

消費税法では、仕入税額控除について「帳簿及び請求書等を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕 入れ等の税額については、適用しない」(30条7項)と規定している。企業が請求書等に該当するデータについて電子取引を行っている場合、その電磁的記録 は国税関係書類以外の書類であるから、請求書等は存在しないことになる。そのため、課税仕入れ税額控除はできないのではないか、という疑問が生じることに なる。


この疑問については、課税の公正に反しない限り国税当局としても電子取引の足かせとなるような法律の運用はできないであろうから、仕入税額控除はできるものと解さざるをえない。


電子帳簿保存法は、高度情報通信社会に対応して、法律が定める紙による保存義務などを撤廃し、民間企業の情報化を促進し、ひい てはボーダーレス社会での国際競争力を高める意図のもと制定されたものであり、消費税法がその足を引っ張るようなことはするべきではないからである。電子 帳簿保存法が制定されるにいたった経緯が平成7年3月の閣議決定「規制緩和推進計画について」における「各種法律によって保存が義務づけられている書類に ついて帳簿書類の電子データによる保存を認めるなど、諸制度の目的に配意しつつ、情報化に対応するための制度の見直しを図るべく検討を行う」ことにある以 上、消費税法が電子取引を実質的に禁止するようなことになれば、電子帳簿保存法の立法ミスであることになってしまうのである。


ただし、問題は、その根拠である。筆者の思いつく範囲で3通りの解釈を試みる。


①解釈1(施行令49①二該当説)

消費税法30条7項は、「・・・帳簿及び請求書等を保存しない場合には」と定めているので、保存しないのではなく、請求書等がもともと存在しないため保存しようがない場合には、帳簿のみの保存でかまわないのであると解する。


これは、消費税法施行令49条1項2号で定める「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき」に該当する という解釈である。消費税法規本通達11-6-3には、本件に該当する例示はないが、4つの例示の上で「(五)その他、これらに準ずる理由により請求書等 の交付を受けられなかった場合」というのがあり、これに当てはまると考えればよいであろう。


この場合、帳簿に理由及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地を記載する(令49条1項2号)ことになる。具体的には、「電子取引のため」という語句と住所又は所在地を記載することになろう。


②解釈2(準請求書等説)

請求書等の意義を定めた消費税法第30条第9項の「請求書、納品書その他これらに類する書類」の「その他これらに類する書類」に電 磁的記録が該当すると解する。つまり、国税関係書類でなくても、同項のイ~ホの請求書等の必須記載事項が入っていれば、「これら(国税関係書類)に類する 書類」として理解すると考えるのである。


このように解する場合、電子帳簿保存法の成立以前との整合性の問題が発生する。すなわち、電子帳簿保存法の制定以前から電子取引は 存在したのであり、当時は電子取引データは文書でないためそもそも税法における「書類」の概念に該当せず、保存義務がなかった。実際には、企業側でそこま で割り切れなかったために、請求書の表紙だけは紙でプリントして送付するといった実務が行われていたことも多いため、消費税法の保存との問題がクローズ アップされてこなかった。ところが、電子帳簿保存法制定により、保存義務のなかったデータに対して、電子帳簿保存法の立法趣旨である規制緩和に反して、保 存義務が生まれたということになってしまう。しかも、まだ企業実務での積み重ねの浅い電子取引について消費税法上の保存義務があるのだとなれば、最悪の場 合、電子取引による仕入金額に対応する仕入税額控除の全額を否認されてしまうような負担の重い保存義務が生じたことになる。企業にとってあまりにも急で、 あまりにも負担の重い義務の発生ということになろう。また、電子帳簿保存法で「当該電磁的記録は国税関係書類以外の書類と見なす」と定めていることとの関 係が問題になろう。


③解釈3(仕入控除不充足説)

電子取引を行っている場合は、請求書等が存在しないため、消費税法だけで見れば仕入税額控除の要件を満たさないが、電子取引に係る取引情報の電磁的記録により請求書等の保存に代わるものとして仕入税額控除の否認はしないと解する。


しかし、消費税法の帳簿及び請求書等の保存要件を満たしていない場合の救済例を1つ発生させてしまうことは、従来、仕入税額控除についての保存要件をきわめて厳しく解釈してきた国税庁の方針とは相反するように思われる。また、この解釈は、次の疑問へとつながることになる。

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