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佐久間裕幸の著作

シリコンバレー訪問記

月刊プレジデント97年10月号掲載記事
<誌面でのタイトル>「勇気の都・・・ シリコンバレーが元気なもうひとつの理由」
執筆=佐久間裕之・出口弘親・橋本健彦(ビジネス創造フォーラム)

ネットワークが支える共通の価値観

この地には世界中の人が住んでいるのだということを実感したのが、日本でもおなじみのT-ZONEというパソコンショップ。ソフトウエアのコーナー を見ると、「韓国語」「スペイン語」「日本語」といった言語別にソフトウエアの陳列棚が作られていた。日本のパソコンショップでこういう売り場は見たこと がない。日本人が考える外国語ソフトといえば、英語圏のソフトであって、スペイン人のためのソフトを売るという発想はないし、実際に在庫を置いたとしても 利益が出るほど日本在住の外国人は多くはない。特にパソコンビジネスにかかわる知的外国人労働者は、日本には極めて少ない。


曽我氏

T-ZONEの社員

このT-ZONEを立ち上げたディレクターの中林千晴氏(33歳)の話では、T-ZONEの10人のマネージャーは、日本人、アメ リカ人、フランス人、バングラデシュ人など多国籍で構成されており、「日本ならこうする」「いやアメリカのショップというものは……」といったディスカッ ションを経て、店舗運営方針が決まるという。こうしないと、世界中の人が集まるシリコンバレーで世界中の人が欲しがる品揃えにはなるわけがない。


今回の訪問で会った多くの人はみな、生き生きと仕事を楽しんでおり、「シリコンバレーのやり方はこういうもので、こうすればうまく いく」「今後この産業は伸びる」といった共通の価値観を持っていた。この価値観を醸成し、技術革新の速いコンピュータ・ビジネスを支えるためのツールが ネットワークなのだ。


上述のIBIは、訪問先のひとつスタンフォード大学のUS-JAPAN TECHNOLOGY MANAGEMENT CENTER所長のリチャード・ダッシャー博士に紹介されて、即日電子メールでアポイントを取ったが、そのIBIでまた12か所の訪問先を紹介された。電 子メールのやり取りでどんどんアポが決まり、仕事も進んでいく。われわれ――パソコン通信のフォーラムという(少なくとも日本ではまだ)確立されたとはい えないメディアの来訪を受けるスタンフォード大学があり、そこから紹介を受けて、訪問先が広がり、その訪問先でまた紹介を受ける。こうして、次々に深い階 層の人脈を得ることができる。ここでは日本的なスピード感ではやっていけない。シリコンバレーに駐在する日本人も、こうしたビジネススタイルを取り込ん で、現地のネットワークの中に溶け込まない限り、日本への送信情報は現地の新聞雑誌のスクラップと変わらないものになってしまう。
だが、「駐在の人は、滞在期間が限られているから、こっちのネットワークに溶け込む時間がないんだろうね」とスプルース・テクノロジーの曽我社長は言う。ネットワークの中に飛び込む勇気というのが重要な要素なのだ。



「アメリカ流」すら通じない街

エンジニアが会社経営に興味をもっていることはシリコンバレーの強みであろう。スタンフォード大学の経営学部ではなく工学部にダッシャー博士のよう な人がいて、戦略経営を教えていて、また学生もそれに対して興味をもっている。だからこそ、優れた技術やアイデアをもった人すなわちエンジニアが起業に よって自分の技術やアイデアを世間に広めるという選択をすることができる。日本では考えられない状況である。


シリコンバレーには世界中から人材が集まっている。そしてここで生きるということは、国際人であることを求められる。スタンフォー ドの学生も世界中から集まっているし、前述の曽我社長も5人のエンジニアの国籍がすべて違うことの大変さを話していた。T-ZONEの中林さんも各国ごと の違いを驚くやら、感心するやらしていた。各国のカルチャーが異なるためにマネジメントは苦労する。そこでは日本の常識どころかアメリカの常識も通じな い。


だが、そんなシリコンバレーにいる日本人は誰もが明るく元気だ。よく、「日本人には独創性や創造性がないから世界的ベンチャーが生 まれない」、「秀才ばかり育てる日本の教育プロセスに問題がある」といった議論がされるが、こちらの日本人を見ていると、そんな心配は杞憂である。もし、 日本人からは独創的アイデアが出にくいとしても、そこは外国人のパワーで埋めてしまえば問題はない。日本人だけがより集まってシリコンバレーに対抗しよう という発想自体がナンセンスなのだ。


この明るさはどこから来るのだろう。今、景気の最高期にあるということもあろう。が、自らの力を信じ仕事をすればきっと成功する、もし失敗しても運が悪かっただけだ、そういう希望に満ちた明るさなのだ。


起業家から従業員まで世界中から集まった人たちの活力、躍動。日本で伝えられている「すでに大企業になったシリコンバレー・ベン チャー像」からはわからないこの街の原点を、われわれはこの旅で体感することができた。シリコンバレーの奇跡はアメリカ人の奇跡ではなく、シリコンバレー でネットワークを作った世界中の人々の奇跡なのだ。


[Writen by Hiroyuki Sakuma, Hirochika Deguchi, Takehiko Hashimoto,from Business Incubator Forum :FBINC]

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