TEL03-3827-2291 【受付時間】平日10:00~17:00

佐久間裕幸の著作

「帳簿書類の保存等の在り方について」報告書について

月刊「税理」ぎょうせい刊1997年7月号

■背景

平成9年3月26日に国税庁国税審議官の私的研究会である「帳簿書類の保存等の在り方に関する研究会」より「帳簿書類の保存等の在り方について」と いう報告書(以下「報告書」と記載)が出された。本稿は、この報告書について検討し、問題点及び今後の課題について検討するものである。
今回の報告書は、コンピュータとネットワークによる情報通信の高度化が進む中で、我が国の現行法体系が情報通信の利用を想定していない状況にあり、また情 報化の遅れた行政側の対応が一因になって旧来の紙ベースでの情報処理、取引決済方式を取らざるを得ない状況にあることで我が国企業の国際競争力の低下が生 じる恐れがあること、さらには紙の保存等のコスト・資源浪費を憂慮して設置された「高度情報通新社会推進本部制度見直し作業部会」の報告書を受けて、国税 庁で昨年7月より検討されてきたものである。


報告書の前文を読むと「高度情報化社会の到来を踏まえると、帳簿書類の電子データ化による保存は、時代の要請というべきものであ り、納税者のコスト負担の軽減にもつながるものである。」とされている。しかし、「適正・公平な税負担の確保等の観点からの条件整備も必要である」と書か れていることで、単純な帳簿の電子保存の話でなくなっている側面もあり、それゆえいくつかの問題点を抱えることになっているように思われる。



■混在する考え方

「帳簿の電子保存」といった場合に、読者の方々はどのようなイメージを持たれるであろうか。私は2つの考え方ができると考えている。


  • 帳簿の作成過程やチェック過程も含めて保存する考え方
  • 出力された紙の保存に変えて、保存すべき帳簿の出力内容を電子保存する考え方

前者は、コンピュータによる帳簿システム自体を残すことで、帳簿の作成プロセス自体をチェックすることもでき、税務調査においても 必要な資料を検索したり、必要なデータを抽出するようなことも念頭に入れた保存の考えかたといえる。巨大な多国籍企業が連結納税を行っているアメリカをは じめ、帳簿の電子保存を認めている国では、コンピュータを利用した税務調査を調査の効率化のために活用しているようである。半面、日本公認会計士協会から 「その結果、制度自体の運用を困難にしている」(*1)との指摘がなされている。


後者は、電子保存の対象を帳簿のみに限定して考え、法人税法第126条ならびに同施行規則第53条以下の帳簿類を電子データとして 保存する考え方である。この考え方は、現行法の文理解釈に忠実な考え方であり、保存期間を定めた起算の日から5年を経過した日以後の期間における保存方法 として認められているマイクロフィルムによる保存を定めた大蔵省告示の発想と共通する考え方である。


今回の報告書を吟味すると、実は、これら2つの考え方が報告書の中に特に指摘もないままに混在していることが読み取れる。そのため、この報告書により、今 まで企業に求められていなかった帳簿システム自体の保存が新たに納税関連義務として登場する可能性も否定できず、納税者のコスト負担の軽減という本来の目 的が達成されないということもあり得るのである。



■具体的な問題点

以下、報告書の内容について私が問題だと考える項目について個別に取り上げる。


(1) 電子データのよる保存を行うことができる帳簿書類の範囲

報告書では、仕訳帳、総勘定元帳等の各種帳簿や取引の相手方に紙で交付する領収書、請求書等の控えについては、電子データによる保存を認め、一方、相手方 から紙で受け取る領収書、請求書等及び手書きの帳簿については電子データによる保存の対象からは除外することが適当であるとしている。
除外する理由として、①紙には紙質、筆跡、書き込み等の情報が記録されており、税務調査上の重要な着眼点であり、②脱税事件の調査、立証の観点からする と、証拠収集上問題が多い、③納税者においても取引先とのトラブル防止や内部牽制上オリジナルの保存が必要であるという点を挙げている。


しかし、請求書等の量の多さこそが帳簿保存や事務処理の効率改善のネックの1つであり、それゆえ請求データを通信回線で仕入れ先か ら受け取るような取引手法が日常化してきている現実に目を向けていないと言わざるをえず、紙で受け取った請求書等をスキャナで読み取り電子データで保存し ても筆跡や書き込みは保存できることを見落としているように思える。また、取引先とのトラブル防止や内部牽制上は、取引時点から半年から1年間の保存でも その目的を達するのであり、5年から7年にわたる長期間の保存を求める税務上の要求とは企業にかかる負担が異なることに留意すべきである。


(2) 可視性の確保について

電子データは、紙の帳簿と異なり、データ自体を直接視認することができないため、ディスプレイ、プリンタ等の見読可能装置の確保は 重要である。しかし、報告書では電子データの保管場所についてまで納税地等に保管することが適当だとしている。大企業においては計算センターを本社と別の 場所に設置したり、中小企業が税理士事務所に経理処理を委託していることは多く見られる経理処理形態である。税務調査の際に計算センターのデータに通信回 線を通してアクセスしたり、税理士事務所のノートパソコンで帳簿データを見たり、帳簿を出力するのでは駄目だということなのであろうか。納税地等に保管す べしという現行規定が高度情報化社会にマッチしなくなっているという発想が欠けているように思える。


また、「データについては、番号、取引年月日、勘定科目等をキーとして検索できるような形で保存される必要がある」という記載や 「(データについて)システム上訂正・加除の履歴が確保されていることは、データの真実性を高める上で特に重要である」という記載が見られる。しかし、現 行法上では紙の帳簿では帳簿間の照合ができることは帳簿に求める要件として理解できないでもないが、検索可能性や訂正・加除の履歴は求められていない。こ れは、冒頭で述べた「帳簿システム自体」の保存を求める考え方から出てきたものと思われる。
また、システム変更などがあった場合についても「旧システムで作成・保存された記録についても、明瞭にディスプレイ上で確認できるとともに、プリントアウ トできる処置が講じられるべきである」という記載があるが、もし、これが検索が可能であったり、データの訂正・加除の履歴を残すことまで要求するものであ ると解するならば、企業はハードウェアの入れ換えを行った場合にも旧システムを廃棄することができず、設置場所の無駄やリース料の支払いなど過重な負担を 課せられることになろう。



*1 日本公認会計士協会「磁気記録による帳簿保存等の在り方についての意見・要望」(平成9年1月17日)

お問い合わせ

お気軽にご相談ください

お見積もりやご相談など、メールフォームでもお問い合わせいただけます。