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佐久間裕幸の著作

「帳簿書類の保存等の在り方について」報告書について

月刊「税理」ぎょうせい刊1997年7月号

■「帳簿のみ」の電子保存について

以上のような報告書の問題点を考えると、今回の報告書は、「帳簿システム自体の電子保存」を念頭においているか、「帳簿のみの電子保存」との考え方 の切りわけができていないということができよう。高度情報化社会に対応して、企業から紙の書類を保管するコストを軽減するという趣旨からいえば、「帳簿の み」の電子保存を前提に検討すべきであり、「帳簿システム自体」の保存は、大企業への税務調査効率化の観点から別途検討すべきものであり、その際には、帳 簿保存ではなく帳簿作成システムの保存という観点から法人税法の改正が必要になるものと考える。


もっとも単純な帳簿の電子保存を考えるならば、現行の会計システムに紙での出力に加えて電子データへの出力をオプションとして追加 することが考えられる。例えば、表計算ソフトのワークシートの形式、CSV形式(データ項目をカンマで区切ったテキストファイル)で出力したり、画像デー タとして出力することが思いつく。これにより、コンピュータの機種に依存することなく容易に帳簿を再現することができるようになる。このデータの真実性を 確保(改ざん等の防止)することは、この出力を物理的な書き換えが不可能なCD-ROM等の媒体に行うことで達成できる。あるいは、法務省・郵政省などで 検討されている電子公証人(*2)のもとにデータを保管することで達成できることになる。



■企業並びに税理士の対応

高度情報化社会の進展の速度を考えると帳簿の電子保存は、今後数年内で認められるようになると考えられる。その場合、帳簿の保存期間を考慮すると現在の帳簿も電子保存の対象となってくることも考えられる。そこで、今回の報告書の範囲で想定できる対応策について触れてみる。


まず、報告書では各種帳簿、決算関係書類及び相手方に紙で交付する領収書、請求書等の控えについては、電子データでの保存が認めら れるとされている。ただし、紙に打ち出した上で追記、変更、書き込み等を行ってその内容が当初の電子データに反映されていないものについては、その帳簿書 類を保存する必要があるとされている。


したがって、現状の経理処理のプロセスを検討し、紙の帳簿への書き込み等や処理過程での紙による集計表の存在の有無ならびにその必 要性を見直し、極力、こうした手書きのプロセスを排除していくことが帳簿の電子保存のためには必要である。例えば、販売管理システムで打ち出す請求書のう ち特定の取引先等には手書きで請求書を発行するような例は、多くの企業に見られる。客先指定請求書であったり、納品先と請求書の送付先が違う場合にシステ ムがこれに対応していなかったり、データの月次更新の後で処理の誤りが発見されるようなことがこれに該当しよう。こうした場合にのみ手書きの書類を保存す るのは、保存の完全性の面で不安が残り、結果として請求書控えについてはいつまでも膨大な紙ベースの控えを保存することになる可能性がある。


反対に領収書、請求書など相手方から紙で受け取るもの、手書きの帳簿等については、電子データによる保存を認めない方向であるから、これらについては従来通り、確実に保存していく必要がある。


記帳業務を税理士事務所に委嘱している場合の電子データによる保存については報告書を読む限りでは考慮されていない、ないしは認め られない方向にあるように思われる。なぜなら、「データの保管場所についても、可視性確保等の観点から納税地等現行税法の規定に従うことが適当である」と 書かれているように、納税地にディスプレイ、プリンター等の見読可能装置を設置し、かつデータもそこに保持されていることを求めているからである。
したがって、税理士事務所が経理専用機を使っている場合、調査に備えて同種の機材を顧客に購入させることが電子保存の条件であると読み取れなくもなく、多 くの中小企業では実質的に帳簿の電子保存が認められないということになる。この点、税理士業界として国税庁への働きかけが必要であろう。



■まとめにかえて

筆者が財団法人ニューメディア協議会内の電子ネットワーク協議会において平成5~6年にかけて帳簿の電子保存に関する検討に加わった際にも、税務・会計と 情報システムの知識だけでなく、法律上の「文書」とは何か、「証拠」とは何かといった法律知識など広範囲の知識を総合しないと検討は進まなかった。その点 では、今回の報告書は短い時間で問題点を集約している点、評価できよう。しかし、納税者の保護の観点からいうならば、今回の報告書は、法人税他の税制体系 の中でも企業に要求されていない「帳簿作成システム自体の保管」に発展する危険を潜ませているといわざるを得ない。報告書の発端となった高度情報通信社会 推進本部の趣旨である、企業の国際競争力と事務負担の軽減、効率化の実現に沿った方向で今後の検討が進められることを期待したい。



*2 電子公証人とは、電子的に作成された文書が特定のものによって真正に作成されたことを公証するほか、これに確定日付を付し、また電子的な記録の形で公正証書を作成・保存して、その文書の存在、内容等を証明する制度である。参考:「電子取引法制に関する研究会の中間報告について」法務省民事局平成9年3月21日など

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