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佐久間裕幸の著作

知っておきたいLLP

納税通信・実務特集平成17年11月

1.LLPとは

LLPとは「有限責任事業組合」という新たな事業体でLimited Liability Partnership の略でLLPと称されています。このLLPは、平成17年8月に施行された「有限責任事業組合契約に関する法律」によって制度化されました。LLPは、① 構成員全員が有限責任で、②損益や権限の分配が自由に決めることができるなど内部自治が徹底し、③構成員課税の適用を受けるという3つの特徴を兼ね備えて います(図表1)。この有限責任、内部自治、構成員課税の3つの効果によって、大企業同士、大企業と中小企業、産学連携、専門人材同士などの様々な共同事 業が促されると見込まれています。


図表1 LLPの3つの特徴
構成員全員の有限責任 有限責任とは、出資者たる組合員が、出資額の範囲までしか事業上の責任を負わないことです。そのため出資者にかかる事業上のリスクが限定され、事業に取り組みやすくなります。
内部自治の徹底 内部自治とは組織の内部ルールが、法律によって詳細に定められるのではなく、組合員同士の合意により決定できることです。これにより出資比率によらず、損益や権限の柔軟な分配と、取締役などの会社機関が強制されず内部組織が柔軟にすることができます。
構成員課税 構成員課税とは、組織段階では課税せず、出資者に直接課税する仕組みです。構成員課税の効果と しては、LLPの事業で利益が出たときには、LLP段階で法人課税は課されず、利益分配を受けた出資者に直接課税されることとなります。また、LLPの事 業で損失が出たときには、出資の価額を基礎として定められる一定額の範囲内で、出資者の他の所得と損益通算することができます。


2.LLPの設立と契約書

LLP設立するに当たっては、次の手続が必要です。

① 組合員が、LLP契約(有限責任事業組合契約)を締結する。

② 契約に記載した出資金を全額払い込む(現物出資の場合はその全部の給付をする)。

③ 事務所の所在場所を管轄する法務局において組合契約の登記をする。

会社と異なり、公証人による定款認証の手続きは必要ありません。しかし、内部自治を柔軟に構成するためには、LLP契約書の作成に工夫と手間を掛けるこ とが必要です。ひな型に当てはめて機械的に作るよりは、行いたい事業や出資者の関わりの度合いを反映した定款にすることがLLPの特色をフルに生かす鍵なります。LLPでの事業の立ち上げに際しては、少なくともLLP契約の登記の際の登録免許税6万円と登録申請書類の審査にかかる1週間程度の期間が必要となります。これとは別に、LLP契約の締結や登記手続に関して、弁護士、司法書士など専門家に依頼した場合はその報酬(手数料)等が必要となります。また、出資 金の払い込み代金は、各出資者が用意する必要がありますが、最低資本金のような規制はありません。


図表2 契約書への絶対記載事項(必ず規定すべき項目)

① 組合の事業
② 組合の名称
③ 組合の事務所の所在地
④ 組合員の氏名又は名称(法人の場合)及び住所
⑤ 組合契約の効力が発生する年月日
⑥ 組合の存続期間
⑦ 組合員の出資の目的とその価額
⑧ 組合の事業年度


LLP契約書においては、出資の目的物を金銭以外の財貨とする現物出資が可能です。たとえば、特許その他の知的財産権を出資の目的物とすることで、これらを所有する大学などと企業が共同で事業を行う場合などに生かすことができます。しかし、労務出資は認められていません。しかし、LLPでは、出資比率に応じない柔軟な利益分配が可能であり、それによって労務の提供による事業への貢献を勘案することができます。業務の遂行に当たっては、総組合員の全員一致による意思決定を原則としています。これは、LLPが、組合契約に基づき、組合員全員がそれぞれの個性や能力を活かしつつ、共通の目的に向かって参画するという制度のニーズに基づいて導入した制度だからです。したがって、業務執行の全部を他の組合員に委任する ような出資とそれに伴う分配のみを目的とする出資者の存在は許されません。事業開始の初期に損失を計上し、課税の繰延べのみを目的とする出資者による利用を排除するためと考えられます。その反面、業務遂行への関わりの度合いによって、各組合員の業務分担や権限についてLLP契約に書き込むこともでき、契約の詳細事項を決める組合員間の規約などで規定することも可能です。同様に損益の分配についても、業務の負荷に応じて自由に取り決めて、柔軟な分配をすることが可能です。この分配についての定めがなければ、出資比率に応じて分配されることになります。



3. LLPが行う外部との契約

LLPは、組合契約の一類型になります。したがって、LLPが外部と契約を行う場合には、組合員の肩書き付き名義で、取引先等と契約を締結することになります。この場合、契約の効果は、当該組合員のみでなくLLPの全組合員に及ぶことになります。この際の契約の名義は、「ABC有限責任事業組合組合員A株式会社職務執行者X」といったもので行うことになります。土地建物などを購入した場合も組合員全体の合有財産となりますが、組合財産の安定性を高めるための措置を講じられています。具体的には、①組合財産を、組合員固有の債務に対する債権者が差押えできないこととする、②不動産登記制度上、分割禁止の合有財産で あることを公示するため、共有物分割禁止の登記を行い、かつ、LLPの組合契約に基づく不動産である旨を表示できるようにしています。当然ながら、LLPでは雇用契約により従業員を雇用することも可能であり、その結果として社会保険や労働保険に加入することができます。また、組合の業務執行者の肩書き付き名義で金融機関に口座を開設することもできます。



4. LLP設立のメリット・デメリット

LLPは、中小企業同士の新規事業連携・ベンチャーと大企業の連携・産学連携・ITや金融の専門人材による共同事業・大企業同士の共同研究開発など様々な形態での共同事業に活用することができます。たとえば、研究開発を行う大学とそれを製品化して販売する企業との産学連携においては、以下のようなメリットが考えられます。

① 共同研究の一方の主体である大学教授に、出資比率以上の利益の分配をすることができる。

② 取締役会などの設置が不要。

③ 共同事業当初に損失が出れば、親会社の所得と通算できる。

④ 利益が出れば、LLPには課税されず、親会社への利益分配に直接課税される。  

この①のメリットは、知的財産権やノウハウのほか労務を提供する側と資金を提供する側の成果分配の調整において、大きなメリットがあると期待されています。反面、業務の運営は、総組合員の全員一致による意思決定を原則としているため、組合員間に方針の食い違いや意見対立が生じたときに運営に支障を来たすおそれもあります。こうしたデメリットに対しては、有限責任事業組合契約の内容をいろいろなリスクを見通しながら、精緻に練り上げておくことで対処すべきでしょう。



5. LLPに関する出資者の税務

LLPについては、パススルーといって、LLPが課税主体になることはなく、その損益が成果の分配比率により組合員たる出資者に帰属して、そこで課税されることになります。利益が出た場合には、それでよいとして、損失が生じた場合には、出資者での損金算入について、次のような制約があります。

(1) 個人が組合員である場合個人の場合、LLPに係る損益は、不動産所得、事業所得、山林所得のいずれかとなりますが、出資額とその年度の分配額を超えての損失額は、当該年度の所得計算上、損失額とすることができません(措置法27の2、措置法施行令18の3参照)。

(2) 法人が組合員である場合  法人が組合員の場合も出資額を超える部分の組合損失は、損金として算入することはできません(措置法67の13、措置法施行令39の32ほか参照)。  

なお、LLPでは、事業損益の成果の報告を組合員に対して行うだけでなく、各組合員の所得に関する計算書を税務署に提出することになっています。

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